第252話麗は佳子の「求め」に応じる。

「そう言われましても」

麗は、返事を少しためらう。

ゆっくりと佳子の手をほどき、向かい合う。

「背中から腕を回されても、お話は難しいと思うのです」

麗は「我ながら、なんと無粋な言葉か」と思うけれど、それ以外に動きも言葉も見つからなかった。


いきなりの抱き着きを、さすがに恥じたのか、佳子は下を向いている。

少し震えているようにも見える。


麗は、ここで難儀するけれど、このままではいられないと思った。

そのまま、佳子を正面から、しっかりと抱きしめる。


途端に、佳子の身体がビクンと震えた。

「麗様・・・ありがとうございます」

「はぁ・・・ホッとしました」


麗は、佳子の胸の圧力も感じる。

見た目以上に、豊かなことも確認する。

佳子の心臓の音も、自分の胸に伝わってくる。


麗は、また考える。

この九条家では、なるべく房事は控えたいと思う。

大旦那や五月、茜も同じ屋敷にいる。

お世話係も多くいるし、使用人も多い。

やはり「房事は秘め事」にしておきたい、そんな思いが強い。

たとえ、「お世話係がお世話する相手と関係を結ぶ」が、古代からの九条家の当然の伝統であったとしても、自分は積極的に「女」を求める性格ではない。


難しいのが、目の前の佳子の状態。

どうみても、情欲が高まっているとしか思えない。

「女子に恥をかかせてはあかん」と、大旦那にも茜にも言われたことも重い。


「仕方ないかな」

麗は、佳子から腕をほどき、ベッドに座らせた。

「せめて、一緒に寝転ぶだけでも」

と、声をかけると、佳子は麗に抱き着くように横になる。


そのまま天井を見ていると、佳子のかすれた声。

「麗様・・・」


麗が佳子を見ると、佳子は涙顔。

「じらさんと・・・意地悪や」

「お情けを・・・うちにも」


麗は、この時点で観念した。

佳子に「恥をかかせてはならない」、これは佳子からの「求め」と考えた。

大きな物音がしないようにと、「秘め事」を貫いた。



佳子は、裸の胸を上下させ、息が荒い。

麗は、その胸を見つめる。

きれいな、形の美しい胸と思う。

まるで、芸術品、そんな胸と見つめている。


佳子が、ようやく麗の顔を見た。

「麗様・・・」

「ありがとうございました、つい、欲しくなりまして」

本当に恥ずかしそうな顔。

「年下やと、うちがリードしようと・・・」

「でも、完全に逆になりました・・・少し、悔しい」

「お肌もきれいで・・・」

「そのまま天国に・・・麗様のすべてが、美味しくて」


麗は、佳子の髪を撫でた。


佳子は、麗の胸に、顔を埋めた。

「末永く・・・」


麗は、何も言わず、佳子の髪を撫で続けている。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る