第250話麗の部屋で 佳子は麗に引き付けられる

佳子は、顔を赤らめて麗の部屋に入るけれど、麗はいつもの冷静な顔。

椅子に佳子を座らせて、質問を始めた。


「佳子さんがご取得されている公認会計士の資格なんです」

佳子は、想定外の質問で、ただ、「はい」と答えるのみ。


麗は、続けた。

「難関の試験ということは聞いています」

「その様子を教えて欲しくて、興味があるので」


佳子は、驚いた顔。

まさか、九条家の次期当主が、興味を持つとは考えていなかったから。

それでも、質問されたからには、答えなければならない。

言葉を選んで、慎重に説明を始めた。

「相当に専門的な話になるのですが」

「簿記の出題は、企業等の簿記手続の理解に必要な基本原理、仕訳、勘定記入、帳簿組織、決算及び決算 諸表の作成」

「財務諸表論は、企業等の財務諸表の作成及び理解に必要な会計理論、会計諸規則及び諸基準並びに会計処理手続」

「ほかにも、細かな専門的な出題が数多く」


麗は、佳子の言葉に、一つ一つ頷いて聞いている。

そして、佳子が、一呼吸置いたところで、頭を下げた。

「いずれにせよ、今は素人、今後は勉強をしてみたいと考えています」

「その時に、迷惑でなければ、ご指導をいただければ」


佳子は、麗の言葉が、実に不思議、しかし好ましいと思う。

「公認会計士を同じ時期に取った仲間が嘆いとった」

「監査しても、最終の結果しか聞かん経営者ばかりやって」

「損しても、利益が出るように誤魔化せと、強要されるとか」

「酷いのは、それが公認会計士の仕事やって、怒鳴られるとか」

「でも、麗様は真面目や、感心するわ」


麗は、少し恥ずかしそうな顔。

「これから経営者としての仕事もします」

「最終的な損得だけで、経営を判断したくなくて」

「自分自身で分析もある程度は出来ないと、経営者としての意味がありません」


佳子は、麗の恥ずかしそうな顔が、実に率直で、可愛らしく思う。

そして、見続けていると、麗の表情の細かな変化が、実に楽しい。

「へえ・・・五月さん、茜さん、直美さんの言う通りや」

「引き付けられる・・・何より、信じられるお人や」

「それにしても、きれいなお肌やなあ・・・」

「直美さんは、このお肌を味わったんやなあ・・・」


佳子は、それを思うと、また、胸がドキドキと高まる。

答える声も、少し震えた。

「はい、麗様、たっぷりと」

「少し専門的で厳しい勉強になりますが、よろしいですか?」


麗は、素直に頷く。

「はい、厳しめでないと、気持ちが締まりません」

「あくまでも先生と生徒でお願いします」


その麗の言葉が、佳子の心に、ビンビンと響く。

「うちが・・・麗様の先生?」

「こんな可愛い子の先生?」

「表情を崩さんのが、また魅力や」

「めちゃ厳しい指導して、苦しむ顔も見たいなあ」


麗は、佳子の赤い顔を見て、心配そうな顔。

「佳子さん、お風邪ですか、無理をしないで」

「お辛いようでしたら、自分の部屋に、戻って構いません」

「お世話係は、高輪の家に入った時からでも」

「会計の勉強も、それほど急ぐ話でもないので」


佳子は、その言葉に焦った。

「あかん・・・そんなことでは・・・」

「最初から追い出されるなんて、恥や」

しかし、心は焦るばかり、その顔は赤くなるばかりになっている。

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