第249話麗の「本当の家族」、お世話係佳子

五月の考えがまとまった時点で、麗も大旦那もリビングに呼び、「奈々子のうつ病問題」に関する相談となった。


麗は、恐縮をするばかり。

「本当に、申し訳ありません」

「こんな、心配をおかけして」

大旦那は、麗を手で制した。

「麗が謝ることやない」

「麗の気苦労は、ここにいる皆の気苦労や」

「それを少しでも減らしたいということや」

茜は麗の手を握る。

「大旦那の言う通りや」

「麗ちゃんかて、医者やない」

「結局は誰か、その知識に任せるしかない」

五月は麗にやさしい笑顔。

「麗ちゃんは大学での勉強も大事や」

「九条財団の仕事もある」

「京の町衆からも期待されておる」

「奈々子さんのことは、専門家に任せて」


大旦那が話を決めた。

「香料店の晃には、わしから言っておく」

「反対も何もないやろ」

「元々、九段の九条財団にも、常駐の医者がおっても、と思うとった」

「麗が何かを書く際にも、話が聞けて参考になる」


じっと聞いていた麗も、そこまで説得されれば、「ありがたいことです」と、答えるしかなかった。

その言葉は、麗としては、本音。

もしかすると、全部自分で背負うと思っていたことが、相当軽減されたことは事実。

と同時に、自分を心配してくれる「家族」の思いも、強く感じる。

「ド田舎で、前の家族と暮らしていた時は、こんなことはなかった」

「いつも、気持ちも消して、表情も消して、ひっそりとしているしかなかった」

「しかし、九条家は違う」

「これが、本当の家族というものなのか」

麗は、そんな違和感のような驚きのようなものに、心が包まれている。



そんな相談が一旦終わると、次のお世話係の佳子が入ってきた。

そして、麗に自己紹介。

「佳子と申します、懸命に尽くさせていただきます」

少し小柄、肌が白く艶めかしい、落ち着いた典型的な京美人。


麗は、「はい、その折には」と、頷くだけ。

まだ、佳子そのものが、よくわからない。


少し緊張気味の佳子に、五月が声をかける。

「心配いらん、麗様は、表情には出さんけど、実は気持ちがやさしくて、深いお人や」

茜は、「そや、その通りや」と頷き、大旦那の顔を見る。

大旦那は、席を立つ。

「後は、この二人で、相談せい」

よくしたもので、大旦那が席を立つと、五月も茜も席を立ち、リビングから姿を消す。


麗は、そこで困った。

広いリビングで、よく知らない女性と二人きりでいると、どうしていいのか、何を言っていいのか、よくわからない。

それでも懸命に考えた。

「あの、お名前も、お顔もわかりました」

「私は自分の部屋に戻ります」

「佳子さんも、自分のお仕事に戻ってください」


佳子は、麗の言葉に笑って首を横に振る。

「いえ、この時点から、私の仕事は、麗様のお世話です」

「ですから、麗様がお部屋に戻るなら、私もご一緒します」


麗は、また困る。

「女子に恥をかかせない」と、大旦那にも茜にも言われたことを思い出す。

「そうは言っても、一人になりたい」のが、本音。

しかし、下手に断ると、佳子に恥をかかす。


それでも麗は、「ここで押し問答をしていても仕方ない」と思った。

佳子が経理の専門家であることも、思い出した。

「佳子さん、それでは、早速、教えて欲しいことがありまして」と声をかける。


佳子の顔も声も、ますます、明るくなった。

「はい!麗様!なんなりとご質問ください」


「経理とか会計に限定する」

麗としては、それ以外の話は、何も考えていない。

そして、佳子も、同じと考えている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る