第176話お茶会終了 お世話係たちの想い

「お世話係候補者」の問題も一応決着がついたことから、麗は次の話に切り替える。

そして、出来る限りの慎重な言い方をする。


「大学のこともあるので、そろそろ都内に戻ろうかと」

「少々の街歩きも考えたけれど、やはり連休中、観光客が多すぎて、その気にならない」

「お世話係さんについては、順番を決めるとか、実際の仕事の段取りとか準備もあると思うので、私が上京後に連絡していただければ、対応します」


つまり、麗としては、自分一人で、すぐに都内に戻りたいとのこと。

そして、お世話係の上京は、麗と連絡を取った上での対応と言う。


少しザワザワとするお世話係たちを見て、茜。

「なあ、麗様、そんな急がんと」

「みんな京都育ちで東京は慣れとらん」

「できれば、一緒に上京したら、よろし」


五月も茜をフォローする。

「まあ、久しぶりの京都や、少しは街歩きをしたら?」

「確かに連休中で観光客も多いけど」

「穴場もたくさんあるし」

「そんな冷たいこと言わんで」


麗は、確かに言い終えて、「慎重だけど、冷たい」とも、思われるかもしれないと考えていた。

少々落胆気味に自分を見るお世話係たちも気になった。

そして、ここはあっさりと、引き留めに応じた。

「わかりました、少し街歩きをします」

「それまでに、順番とか準備を進めて欲しい」

「一緒に上京します、安心していい」


ホッとした表情に変わったお世話係の中から、葉子が麗に尋ねた。

「麗様は、どこに街歩きを?」


麗は、少し考えて答えた。

「財団で式子内親王様のブログを書くので、賀茂斎院跡、七野神社」

「それから、平野神社」

その麗の答えに、葉子の顔が輝く。

「それは・・・なかなか・・・御心が深くて」


葉子だけではない、他のお世話係も驚く。

「グッとくる神社ばかりや」

「由来も深い」

「観光ブックには、あまり・・・だから静か」


茜が麗に声をかけた。

「なあ、一緒に行こうよ」

「うちも行きとうなった」

「一度はフラれたけど」


麗は茜の意図を読んだ。

つまり、誰か特定のお世話係と一緒に出掛けると、不用意な嫉妬や詮索を呼ぶこと。

それであるならば、姉と弟のほうが無難。

また、茜も麗をすぐに都内に帰したくないとの気持が強い。

そうなると、ここは素直に茜の願いを受けようと思った。


麗は冷静に答える。

「わかりました、じゃあ、一緒に」

「七野神社と、平野神社にも、御挨拶もしたいなあと」

「取材も兼ねたいと思うので」


そんな状態で、「お世話係候補者」とのお茶会は終了した。

結論としては、顔見せの目的に過ぎなかったお茶会は、麗の提案により、「一週間交代で公平にお世話係を勤める」というもの。

誰にも不満の言いようがなく、公平である限り、嫉妬などの問題が生まれようがない。

そして、その公平な立場から、麗を射止めるための、厳しく困難な競争が始める。

お世話係候補者たちが、面前で言葉を交わした麗は、実に冷静かつ慎重な態度に終始した。

自分だけで上京したいなど、時々冷淡な態度を取るけれど、納得できる意見を言うと、頑なに拒絶はしないことも理解した。


「実に慎重だけど、実はやさしい、みんなの立場をわかってくれている」

「すごく可愛くてきれいな顔をしているから、ずっと見ていたい」

「言葉を発するたびに、引き寄せられる、ドキドキが高まる」


午前中のお茶会終了時には、お世話係全員が、麗のとりこになっている。

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