第175話食生活を暴露され、麗はやり込められる。

麗の「お世話係は全員、一週間交代で」の提案を聞いていた五月と茜は、驚くばかり。

五月

「誰の顔も実家にも恥をかかせない」

「それと同時に、誰が麗ちゃんの気持を射止めるのか、実力勝負になる」

「一週間交代やから仕事感覚になるかな」

「それと、他の女の子と競争にもなるから、気を抜けない」

「東京見物をしたいと願う女の子の願望には、しっかりと答える」


麗は、慎重に提案を続ける。

「皆様の順番は、話し合って決めて欲しい」

「さっきも言った通り、私には判断が難しい」

「お屋敷での仕事も、しっかり考えて支障のないように」


そこまで話をして、既に麗にはそれ以上の提案がない。


五月がお世話係候補者全員に声をかけた。

「まあ、麗様の言う通りで、みんなで話し合って決めましょう」

「大切なことは、まずは麗様の健康管理」

「少し・・・というか、相当に食が細いことがある」


茜が、麗の脇をつつく。

「冷蔵庫の中身を言ってもいい?」

麗は、顔をしかめる。

「ここで言う必要が?」


しかし、茜は言ってしまった。

「何しろ、冷蔵庫の中には、水と珈琲豆しかない」


その暴露で、お世話係候補者全員が驚きを隠せない。


「え・・・あきません」

「それは・・・困ります」

「どういう食生活を?」


・・・ザワザワとする中、麗は苦虫を噛み潰したような顔。

何の返事も出来ない。

そもそも、東京に出て以来、米を買ったことはない。

だから炊飯器を買ってあるけれど、使ったことはないし、新品で箱から出していない。

調理する食材も買ったことはない。

だから、鍋もフライパンも全て上京の時に買ったまま、新品。

料理などは自分でしたことはない。

ほとんど一日一食のコンビニ弁当、京都に戻る前は、おにぎり二個だけの生活だった。


かろうじて、食事以外の掃除とか洗濯はするけれど、特に食生活を見られれば、「何と生活力がない人間か」と、呆れられてしまうのが必至。


麗は、それでも、最低限の説明をしようと思った。

「アパートから近くにコンビニがあって」


しかし、その説明は功を成さなかった。

候補者全員が口々に心配の声をあげる。


「いけません、コンビニ食なんて」

「添加物だらけで、危険です」

「なんと心配なことか」

「お口に合わなくて、食欲もないとか?」

「何とか食べられるものを作って差し上げたい」

「そんな大量生産の工場で機械が作ったものなど、お食べにならずに」

「心のこもった手作りの食事を」


五月が麗の顔を見た。

「麗様、わかるでしょう、これほど心配していますよ」

「ですから、もう、いい加減な食生活は出来ません」

「しっかりした料理を食べて、身体に肉を付けましょう」


茜はクスクス笑う。

「ほら、実態を暴露すれば、こうなる」

「誰でも、そう思うよ」

「ましてや、大事な人だもの」


麗は結局、やり込められている。


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