第174話お世話係候補者とのお茶会 麗は驚くような提案をする。

翌日の午前9時、「お世話係候補者」とのお茶会が始まった。

ただし、お茶会といっても、紅茶とクッキーによるもの。

これについては正座が苦手な麗を考慮してのことになる。


五月がお世話係候補者を全員紹介して、話が始まった。

尚、候補者は計8名。それぞれにお屋敷内で係を受け持っている。

音楽係が音大卒の美幸、通訳が西洋史専攻の涼香、庶務係が日本史、文学専攻の葉子。

料理係が2名、料理学校出身。日本料理が奈津美、洋食が直美。

裁縫が美大出身の可奈子と真奈、そして経理が商学部出身の佳子と紹介された。


五月

「まずは、あくまでも麗様と全員の顔合わせや、それから決める」

「まあ、全員が麗様より年はお姉さまやね」

「麗様は、こんな真面目な顔をしとるけど、実はやさしいよ」

「無理なことは言わん」

麗は、全員の顔を見た。

「希望者だけでかまいません」

「この京都と、都内では全然雰囲気は違うので」

「無理をしてまで来てもらわなくても」


お世話係候補者たちは、少しずつ話し出す。

音楽係の美幸

「いや、無理ではなくて、是非、行きたいと思います、それから麗様のピアノも楽しみで」

通訳係の涼香

「私も同じです、東京に出たくない女の子はいません、麗様が通う神保町とか楽しみで、それから美術展も最初は東京に来るので、それで麗様のお世話係が出来るなんて、楽しみでなりません」

庶務係の葉子

「みんなそうだと思います、美幸さんと涼香さんの言う通りで」

その葉子の言葉に、料理の奈津美と直美、裁縫の加奈子と麻友、そして経理の佳子が、一様に頷く。


麗は、少し困ったけれど、確認したいことがあった。

「ところで、このお屋敷から都内に移り住むことになって」

「それぞれの係の人がいなくなるのですが、お屋敷の仕事の上で、支障が発生するのではないでしょうか」

「その心配があるので、結論は慎重にするべきではないかと」


麗の質問に答えたのは茜だった。

「麗様、心配はいりません」

「お互いの仕事も、出来るように教育をしてあります」

「一応の係設定であって、もし困る場合には、また一族から信頼がおける人を採用するだけなので」


麗は、考え始めた。

どうにも、誰を選んでいいのか、返事が難しい。

誰か特定の人を選んだ場合に、その後のお屋敷の中で、人間関係に問題が起こっても困る。

そして、思い出すのは、枕草子だった。

清少納言にしても、中宮定子に仕えて初めて、仕事らしきことをしたけれど、実家の中ではお姫様だった。

となると、今、自分の目の前にいる「お世話係候補者」も、実家ではお姫様のようなもの。

そして、その実家はそれぞれ、九条家に縁が深いことは、先日以来の使用人名簿からよくわかっている。

つまり、その誰かを選ぶかによって、使用人の実家それぞれにも「格付け」や「上下関係」まで、発生してしまうことになる。


麗は、ゆっくりと言葉を選んだ。

「皆さんが、ご承知の通りで」

「特に私とは全員が初対面のようなもの」

「ですから、ここで誰かと決めるのは、実に根拠に欠ける不確かな判断になります」


その麗の言葉を聞いた、五月と茜、そして「お世話係候補者」たちの顔が一斉に蒼ざめた。

もしかして、麗は誰も選ばないのだろうか、その不安を感じたこともあるし、その後の麗の発言が全く予想が出来ない。


麗は、特に「候補者全員」の顔を見て、ゆっくりとした話し方。

「もし、お差し支えなかったら、全員で交代に例えば一週間交代で一人ずつで、どうでしょうか」

「そうすれば、お互いに、お屋敷での仕事にも、それほど穴が開きません」


その麗の言葉で、実は緊張していたお世話係候補者は、一瞬全員があ然。

そして、次の瞬間、お互いが顔を見合わせて、笑いだしてしまった。



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