第160話麗はなかなか都内に戻れない。晃と奈々子。

麗もリビングに入り、ソファに座る。

話題は葵祭などで、医師の逮捕や鷹司の座敷牢の話ではない。

それでも、香料店のかつての「従兄」隆の話も出る。


大旦那

「もしかすると、隆も葵祭を見れるかもな」

五月

「それは、香料店は喜ぶでしょう」

「麗ちゃん、さっそくお手柄やな」

「瀕死の隆さんを復活させてしもうた」

麗は慎重。

「出来る限り、そうなるとうれしいですね」

そして家具や京都で着る服などの件が片付いたので、出来れば今日の夜にでも、都内のアパートに帰りたいと思っている。

また、昨日から食事を摂り過ぎているし、今夜も食べるとなると、実に気が重い。


大旦那が五月の顔を見た。

五月も頷いて、麗に話しかける。


「麗ちゃん、出来れば連休中は、ここの御屋敷におって欲しいんや」

「ここの九条家の後継として、付き合いが深い人への顔見せ」

「といっても、こちらからは出向かん」

「全て、ここの御屋敷での接客」

「心配することはないよ、大旦那もうちも茜も同席する」


麗は、こうなると実に断りづらい。

「わかりました、出来る限りの対応を」と応える以外にはない。

それでも、一定の知識は必要と考える。

「お逢いする前に、その方々の資料など読ませていただければ」と願う。


茜が頷く。

「それはまかせて、うちが教える」

「夕食後でもゆっくりと」



さて、麗が九条家の後継として動き始めているなか、「母」だった奈々子は、香料店の兄晃から電話を受けている。


「麗様が、瀕死の隆を慰めてくれて、隆はもちろん、店も幸せや」

奈々子

「そうなん?それはよかった、安心したわ」

「それから例の悪徳医師は逮捕」

「鷹司は座敷牢や」

奈々子

「へえ、動きが速いなあ」

「麗様もキレキレらしいで」

奈々子

「そうやろな、怒ると怖いで、あの子」

「連休中は九条屋敷やろ、お客様も多いかな」

奈々子

「また、あの仏頂面のままで・・・心配や」

「下手に笑うよりは安全や、それでええよ」

「後は・・・嫁候補との面談もあるかもな」

「予想はつくけど、何人か」

奈々子の声が沈む。

「父代わりは大旦那、母代わりは五月さん、うちは出る幕なしや」

「今度は宮家でなくて?」

「ああ、一族の中からのほうが安心や」

「それも京都育ちのお嬢様やな」

奈々子は困惑。

「そんな・・・大学に入ったばかりで・・・」

「仕事は・・・財団からあるのか・・・」

「大事なことや、九条の家でも、俺の香料店でも、早く跡継ぎが欲しい」

「だから、急がんと」


奈々子は、もう何も言わなかった。

ただ、ますます遠い存在になる麗と、何も出来ない自分の情けなさを感じている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る