第159話外出を終えて麗は、既に疲れている。

いつもの無表情と素っ気なさで食事を終えた麗は、次の予定、お屋敷で麗が使う家具選びのため、老舗デパートに入った。

購入するのは、テーブルと椅子、書類などを入れるサイドボード。

決めるのは実に即決だった。

松本に起源を持つ家具会社のウィンザー調のものに統一。


大旦那は、安心したような笑顔。

「そう言えば柳宗悦さんも、ここの家具に関係しておったな」

「どっしりとしていい家具や、使い込むほどに味が出る」

「棟方志功さんも、好んでおった」

「麗は、やはりいいものを選ぶ」


五月は、麗に意外さを見る。

「もっとクールなアールデコみたいのにするかと」


麗は首を横に振る。

「いえ、大旦那の言われた通りで、使い込みたいので」


家具を選んだ後は、同じデパートで京都で着る服を選ぶ。

ここでは、茜が取り仕切る。

「スーツは三着、礼服は二着、とりあえずや、モーニングも作る」

「普段着も、少々」

「それから、靴もしっかりしたものを」


麗は、あまり着る服にこだわるタイプではないので、茜の言いなりとなる。

その後、鞄、財布まで含めて、高額、高品質のものを購入となった。


それにしても、数時間で、相当の購入額となった。

麗は、金銭感覚を失いそうになるけれど、それも仕方ないのかとも思う。


「やはり、京都の中でも、名家中の名家の跡取りか」

「それが、どこの馬の骨ともわからないような、貧相な身なりや持ち物では馬鹿にされる」

「それを考えれば、少々の見栄に金を使うのは、京都で暮らす場合は、安全措置でもある」


そして、そんなしがらみが何もない都内での生活を思う。

「都内であれば、実力本位になるから、そんなものは、どうでもいい」

「作家であれば、提出した原稿が第一であって、出版社に持ち込む時の服装なんて、どうでもいいこと」


「しかし、京都では、それが逆転する」

「まずは身分、家柄」

「それに恥じない見栄え」

「それがしっかりしてから、挨拶」

「その次に本題か」


さて、外出の予定も全てこなし、三人は、お屋敷に戻った。

出迎えは、鷹司を座敷牢に入れたので、五月と副執事の三条、使用人たち。


五月が「お疲れ様でした」と頭を下げると、大旦那は「ひとまずは休憩や」と、リビングに向かう。


茜も大旦那の気持を読む。

「つまり鷹司は、放っておくということや」


五月が、含み笑いをする。

「何しろ座敷牢は、冷暖房なし、照明もない」

「板敷で布団もない、枕もない」

「窓は外からしか開けられん、しかも雨戸のままや」

「一晩か、二晩、じっくり考えてもらわんと」

「食事は・・・残飯でええやろ」


麗は、その鷹司に同情などの気持は全くない。

実の父と母を殺した計画に加担した鷹司。

恵理と結に血が出るまで殴られ蹴られていた子どもの頃の自分を「ただ冷えた目で」見ていただけの鷹司には、呆れと憎しみ、侮蔑しかない。

また、父と母を殺した医師の嘘八百の言い訳にも、また腹が立ってきた。

「極道に家族を襲われただと?」

「田舎者を誤魔化すなんて簡単に思う京都人の典型的な嘘で口から出まかせだ」

「そして表面上は謝りながら、内心は田舎者を嘲り笑う」

「その場だけ嘘でも何でも誤魔化せば、田舎者はやがては田舎に帰る、それで全てが丸く収まる」

「それで、騙した我が身も安泰、京都人の社会も安泰というわけか」


京都の「本当の実家」に戻った麗は、二日目にして、すでに疲れている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る