第79話三井芳香は料亭からの通報により派出所に。

三井芳香は、吉祥寺の繁華街を失意に包まれ歩いている途中、警察官による職務質問を受け、派出所に連行されていた。


警察官は三井芳香に尋ねた。

「さきほど、とある料亭の女将から通報があったのですが、その手の平からの出血」

「そして、そのカバンの中には出刃包丁とか?」

「出刃包丁を所持している目的は?」


三井芳香は、全く答えられない。

その本心としては、麗を発見しだい、出刃包丁で威嚇する、それも効果がなければ何らかの傷を負わせるというものであったから。

「あんな私を無視して、馬鹿にするような麗は、ひどい目に遭わせて当たり前」

「痛い思いをさせないと、私の気がおさまらない」

しかし、そんなことを目の前の警察官に言うことは出来ない。


警察官は、さらに尋ねた。

「誰か特定の人を探して、そこの料亭に入ったとか?」

「その特定の人は、あなたに刃物を持たせるほどの何かをしたのですか?」


三井芳香は、ここでも答えに窮した。

「確かに無視はされた」

「部活への誘いを断られた」

「しかし、それが犯罪とまで、警察官は認めるだろうか」


警察官は、答えない三井芳香に業を煮やした。

「料亭から提供された玄関のビデオがあります」

「先ほどの料亭での貴方の言動が全て収録されています」

「ここで、お見せしましょうか?」


三井芳香は、その言葉で身体がガタガタと震えだした。

ますます、声が出せない。


警察官の表情が厳しくなった。

「いわゆる危険なストーカーではないですか」

「貴方の発言からは、相手に非は感じられない」

「それどころか、貴方の根拠のない逆恨み」

「その恨みをはらすべく、出刃包丁を持って、相手の姿を見かけた場所を探し回る」

「出刃包丁は何の目的?」

「恨みを持つ相手に、出刃包丁を使って料理を振る舞う?」

「普通はありえないでしょう」


三井芳香は、あまりの恐ろしさで泣き出してしまった。


その三井芳香に警察官は、厳しい。

「泣いたからといって、このまま貴方を派出所から出すことは出来ません」

「このまま、派出所から出して、出刃包丁を振り回して犯行に及ばれても困ります」

「とにかく出刃包丁を持っていた目的を述べて欲しい」


三井芳香は、結局、警察官の質問に何も答えることは出来なかった。

その後、両親が呼ばれ、警察官が派出所に連行した理由などを述べた後、また厳しい言葉。


「この案件は、かなり危険と思われます」

「まだ、具体的な犯罪事実はありませんが、殺傷事件の一歩手前」

「警察としても、通われる大学に一報をさせていただきます」


両親は、下を向いて震えるばかりの娘を抱きかかえた。


警察官は両親に三井芳香を委ねた。

「娘さんに犯罪を犯させないように願います」


両親も三井芳香も、全く反論が出来なかった。

憔悴状態にて、自宅に帰るしかなかった。


三井芳香は、自宅に帰ると両親から厳しい叱責を受けた。


「こんなことばかり繰り返すと、とても大学には通わせられない」

「警察からの通報があれば、大学も厳しい態度を示すよ」

「どう考えても、芳香が悪い」

「刃物を持ち出して、芳香に興味がない下級生男子を付け狙う?」

「とても正気ではない!」

「お父さんだって、仕事をしているの、貴方が犯罪を犯せば、迷惑になる」

「とりあえず、芳香は大学は休学、あるいは退学、当分自宅から出しません」


芳香は、自宅でも顔を上げることが出来ない。

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