第55話蘭は泊まりに来ない、蘭の不安と涙

京都のことを思い出して、また胃が痛い麗は、夕食を食べられる状態ではないので、コンビニの前を素通り、何も食べるものなどは買わない。

昼も食べなかったので、朝に桃香と食べただけになる。

結局、何も変わりはない、一日一食生活になる。


「それでも、夜中にお粥を食べたし、朝は多めに食べた」

「こんな地味な俺だ、食べ過ぎかもしれない」

「コンビニの弁当も、どれを食べても同じ味だから、もう飽きた」


それでも、水だけは飲む。

「俺には水で十分、味付けも不要かもしれない」

そう思って水を飲んでいると、神保町で買ってきた本が気になった。


「今の救いは、古代ローマの話だけ」

「京都は、監獄で地獄でしかない」


麗は、鞄から本を取り出し、ついでにスマホを取り出す。

外出中にジャケットに入れないのは、あまり電話にすぐに出たくないためと、留守電にして相手と内容を確認してから、再コールするかどうかを決めるため。

「下手に簡単に電話を受けて、考えなしに安請け合いとなっても、後で後悔するかもしれない」

「緊急であっても、それは相手の都合、俺が緊急でも何でもない」

「相手のペースにかき乱されるのは、まっぴら御免だ」


ただ、現時点で麗がスマホ画面で見たのは、文字によるメッセージで、しかも妹蘭からだった。

文面は、単純そのもの。

「麗ちゃん、土日に泊まりに行けなくなった」とだけ。


麗は思った。

「それは、気楽でいいけれど、やけに文面が短い、理由は書けないのか」

「いつもは肉声中心の蘭なのに」


しかし、泊まりに来ない理由を尋ねるのも、兄として情けないと思った。

「書けない理由を聞くことも野暮だ」

「返信も、そうなると不要」


結局、風呂に入り、洗濯、そのまま読書をして、午後11時頃には、眠ってしまった。



一方、麗のアパートに「泊まれない」とのメッセージを送った蘭は、桃香と話をしていた。

「そんなとこじゃないって、マジ、大変」

桃香

「何?何があったの?」

蘭の声が震えた。

「父さんと母さんが、麗兄ちゃんの部屋を片付け始めた」

桃香

「え・・・マジ?何で?」

「私も聞いたの、麗兄ちゃんが帰って来たらどうする?って」

桃香

「そしたら?」

「父さんが怖い顔で、もう帰って来ないって」

桃花

「母さんは?」

蘭は涙声。

「泣いているだけ、麗が可哀そうって・・・」

桃香

「うーん・・・何やろ・・・京都かなあ・・・」

蘭は、激しく泣く。

「父さんが・・・これで厄介払いって・・・」

「麗兄ちゃんが、父さんに何をしたって言うの?」

桃香

「麗ちゃんには言ったの?それ」

「言えないって・・・怖いもん」

桃香

「ええか?うちがそれとなく、香苗さんから聞いてもらう」

「ごめん、お願いします」

蘭は、泣き崩れてしまった。

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