第36話山本由紀子と桃香の会話は続く 

ただ、山本由紀子と桃香は、もう少しお互いに話をしたい様子。

どうやら、気があったらしい。


まず桃香がオズオズと山本由紀子に尋ねる。

「あの・・・麗君は大学では、どんなでしょうか」

山本由紀子は苦笑。

「うーん・・・私は大学図書館の司書だから、ほとんど図書館でしか顔を見ないけれど」

「最初は・・・挨拶とかしてきたけれど」


桃香は、その後の麗がほぼわかった。

「すぐに顔も見なくなり?言葉も要件のみ?」

山本由紀子は、また苦笑。

「私は声をかけるよ、仕事でもあるけれど」

桃香は、情けないような顔。

「ほんと・・・申し訳ありません・・・こんなやさしいお姉さんに声をかけられて」

「挨拶もしっかりできない」


山本由紀子は寝室の方を向く。

「なんか変なことを言って、嫌われたのかなあって、ちょっとがっかりしてたし、心配もしていた」

桃香も寝室の方を向く。

「子供の頃は、それほどではなかったけれど・・・いつからかなあ」

「人付き合いが嫌いって言いだして」

「誰に対しても、仏頂面で・・・」


山本由紀子

「最初は源氏とか注釈書を読んでいたけれど、最近は古代ローマかな」

「そっちの方に興味があるみたい」


桃香は、首を傾げるけれど、思い当たるフシもあるようだ。

「そういえば、あまり源氏とか古典にこだわりたくないって言っていました」

しかし桃香は、それを言って微妙な顔になる。

「麗君は、源氏が得意なはずなのにね、それを活かせばいいのに」


山本由紀子は、さっきまで見ていた宅急便の箱に目をやった。

「もしかすると、京都にもお知り合いがあるの?」

山本由紀子としては、素直な質問になるけれど、桃香の顔が、また微妙。

「うーん・・・麗君は・・・確かに深い関係があることは事実です」

「でも、それを知られるのを嫌がっているのも事実」

「幼なじみの私でも、理由はわかりません」

「言うなって、そんな感じなので」


山本由紀子は、首を傾げた。

「何でだろうねえ・・・わからないけれど・・・」

ただ、目の前の幼なじみの桃香が「理由は知らない」と言う以上は、どうにもならない。

それに、そろそろ帰らねばと思った。

「じゃあ、桃香ちゃん、後はお願いしますね」


山本由紀子が立ち上がると、桃香も立ち上がり、深く頭を下げる。

「本当に今日は、ご迷惑とご面倒をおかけしました」

「いつか、お礼に伺います」


山本由紀子は、にっこりと笑い、アパートを出ていった。



さて、桃香は、少しして近くのコンビニに直行、お粥などを買い直帰。

「とにかく何か食べさせないと」

「まずは梅干しのお粥にする」

「お茶も買ったから、それでいいかな」

「料亭から持って来た料理は、明日の朝ごはんにしてもらう」


しかし、麗は見にいったけれど、起きる気配もない。

すぐに料理を始める必要もないので、料亭の女将香苗に、「麗の状態と、今日の休む旨」を電話をする。


女将香苗は、すぐに納得。

「わかった、まずは麗ちゃんを普通に戻して」

「店のことは、何とかなる」

「明日の朝、うちも行く」


そこまで言って、女将香苗の言葉に間があった。

「九条の大旦那と茜さんから、うちに電話があった」

「もうな、相当なご心配や・・・」


いつもは冷静な女将香苗の声が、珍しく震えている。

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