第35話山本由紀子と桃香

麗に届けられた宅急便に怖れをなしていた山本由紀子は、テーブルの上に置いてある麗のスマホが点滅、震えていることに気がついた。


「うーん・・・他人のスマホ、出るわけにはいかないしね」

「それに番号だけで、名前登録ができていない」

「麗君は・・・寝ているよね・・・スルーするしかないかなあ」


山本由紀子としては、麗を起こすのもどうかと思うので、そのままにする。

そして、しばらくして、スマホの点滅と振動はおさまったけれど、チャイム音が聞こえてきた。


「どうしましょう、麗君を起こすのも・・・」

と思ってドアまで向かった山本由紀子に聞こえてきたのは、若い女の子の声だった。


「おーい!麗ちゃん!開けて!」

「電気ついているでしょ!いるんでしょ!」

「グズグズしない!」


山本由紀子は、少し焦った。

このインタフォン越しに騒いでいる女の子は、私のことなどは知らない。

もちろん、私も、この女の子のことは知らないけれど、どんな対面をしていいのか、わからない。

どうみても繊細な麗が、変なトラブルに巻き込まれてもいかがなことかと、思ってしまう。

しかし、いつまでも騒がせてはおけないのも事実、近所の目もないとは言えない。


山本由紀子は気持ちを固めた。

「まあ、いいや、事実を言おう」


と、ドアを開けると、予想通り、目を丸くした麗と同じくらいの年齢の美少女が一人、小さな荷物を持って立っている。

「あの・・・ここ・・・麗君のアパートです・・・よね・・・」

その美少女は、少々不審な表情で、山本由紀子をジロジロと見る。


山本由紀子は、気持を固めているので、キッパリ。

「はい、その通り、事情を言います」

そのまま、美少女を麗の家に招き入れ、「ありのまま、かくかくしかじか」と説明をする。


そのありのままの説明が功を奏したのか、美少女は山本由紀子に深く頭を下げた。

「すみません、私、麗君の京都からの幼なじみの桃香と言います」

「本当に、麗君がお世話になってしまいまして、申し訳ありません」

「大切なお仕事を、休んでまで・・・」


山本由紀子は、ようやくホッとした。

そのまま、また具体的な話に移る。

「とにかく、冷蔵庫には珈琲豆と水しかないの」


桃香は、がっかり顔。

「もう・・・この間も心配になって来まして」

「麗君の妹さんも、すごく心配していて」


山本由紀子

「もう少しすると起きるかなあ」

「でもね、食べるものが何もない」

「私がコンビニに買いに行こうかなあと思っていたの」

「胃が弱っていると思うので、お粥みたいなのにするかなとね」


桃香も素直に頷く。

「そうですね、私、吉祥寺の料亭に勤めていて、仕事の合間に、お弁当を少し作って持って来たんですが」

「お粥とかの消化がいいものでないと」


山本由紀子は桃香に尋ねた。

「ねえ、桃香さん、仕事の時間は大丈夫?」


桃香は頷く。

「はい、女将に事情を説明します」

「麗君のことを、昔から知っている女将で、私の叔母ですので」

「私も、休みをもらいます」


山本由紀子はホッとした。

「じゃあ、私、もう少ししたら帰ってもいいかな」


桃香もホッとした顔、再び山本由紀子に深く頭を下げている。


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