第34話山本由紀子に抱かれて麗は眠りに落ちる・・・そして山本由紀子は不思議な思い。

麗は、全く想定外の山本由紀子の行動に必死に抵抗を試みる。

「山本さん、そこまでは」

麗は身体を動かして山本由紀子の腕をどけようとするけれど、腕の力が強く難しい。


そのうえ、山本由紀子は、麗を抱いたまま、「お叱り」も加えて来る。

「静かになさい、ガリガリじゃない、麗君」

「力も弱い、私のほうが強い」

「まずは寝ること、そうしないと離してあげない」


麗は、この時点で素直に諦めるしかないと思った。

「今の体調では無理に抵抗も難しい」

「抵抗を続けて、逆に大騒ぎされたら、もっと困る」

「それこそ、犯罪者扱いになれば、どうにもならない」


ただ、不思議にも思う。

「何故、この山本由紀子さんは、ここまで俺にしてくれるのか」

「実に考えられない」

「・・・まだ、子供だと思っているのか?」

「若い男女が同じ布団に包まっているという認識ではないのか?」


それでも、山本由紀子の身体は柔らかく、ふっくらと温かい。

また布団も、ジンワリと温かくなってきた。

薬が本格的に効いて来たこともある。

麗は、結局、眠気には抵抗できなかった。

そして、山本由紀子に抱かれたまま、ストンと眠りに落ちてしまった。



「寝たか・・・」

山本由紀子は、麗が寝息を立て始めたことを確認して、ゆっくりと布団から出た。


「それにしても・・・」

山本由紀子は麗の寝姿を見ながら、不思議でならない。

「私、何でこんなことしたんだろう」

「確かに井の頭線で見た麗君は、実に倒れる寸前」

「それは大学職員としては見逃せないこと」


「でも、医務室に連れて行くだけで、本来は充分なはず」

「それが、どうしてもアパートまで送りたくなった」

「有給休暇を取ってまでだよ・・・」


麗の口が寝言なのか、少し動くけれど、全く聞き取れない。


山本由紀子は、その口を見て、身体が熱くなる。

「一緒にベッドインしちゃった」

「温めるって、理屈をつけて、無理やりだ」

「ある意味・・・いや絶対に危険な行為のはず」

「未成年なんとかの犯罪かな」

「でも、実はフラフラの麗君を見たら、私がそうしたくなった」

「うー・・・あのお口を見ていると、身体が変になる・・・」

「キスもしたくなる、そんなお口だ」


身体が熱くなってしまった山本由紀子は、心を落ち着けようと思った。

そっと足音を忍ばせ、再びテーブルのある部屋に移る。


「とにかく冷蔵庫には何もない、食材がない、どこかから調達せねば」

「麗君は、あの体調で調達のための外出は無理」

「そうなると・・・鍵を借りて・・・」


山本由紀子は、部屋に入った時に麗が置いた鍵を確認。

「近くにコンビニもあった」

「おかゆ・・・かな・・・」

「でも、まだ寝たばかり、後で買いに行くとして」


山本由紀子は、再び部屋を見回す。

そして、宅急便の箱を発見。

「何だろう・・・見るのもどうかと思うけれど・・・暇だし・・・」

結局、山本由紀子は、その宅急便の箱を手に取ってしまう。

そして、鳥肌が立つくらいの衝撃を受ける。

「え・・・すごい超有名な香料店の包み紙・・・でも差出人は手書きで・・・当主本人?・・・この人の名前、新聞で見たことある・・・」

「中身も・・・半端じゃない・・・超高級品だよ・・・」

「麗君って・・・何者?」

今度は、山本由紀子がガクガクと震えだしている。

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