第33話麗は司書嬢山本由紀子とベッドインになる。

麗は司書嬢山本の「麗君、ついたよ」とのやさしい声で、目を覚ました。

確かに目の前に、自分のアパートがある。

支払いを終え、麗がタクシーを降りると、司書嬢山本も一緒に降りて来る。


麗は、少々ふらつくものの、司書嬢山本の考えが不明。

「え・・・っと・・・」それ以上に、言葉が出ない。


司書嬢山本は、いつものやさしい笑顔のまま。

「麗君、少し部屋を見せてくれるかな」

麗は、実に困った。

幼なじみの桃香はともかく、司書嬢山本はそこまでの関係ではない。


司書嬢山本は、また笑う。

「とにかくまだ心配なの、だから早くなさい」

「言いたいこともあるの、寒くなって来た」


麗は、仕方なかった。

あまり自分のアパートの前で、大学関係者と押し問答をしても、それは穏やかではない。

「汚い部屋ではありますが」と、ドアを開けて入ってもらうことになった。


麗は、かなり緊張気味に司書嬢山本に声をかける。

「あの、いろいろ、本当に何から何までご迷惑をおかけしました」

「珈琲ぐらいしかありませんが」


司書嬢山本は、首を横に振る。

「いいわよ、あれがミルでしょ?」

「そしてフレンチプレスの器具、珈琲豆は?麗君は無理しない」

そして、麗の顔をじっと見る。

「山本さんでなくて、由紀子さんにして」


麗は、ようやく司書嬢山本が山本由紀子という名前であることを理解する。

確かに、大学図書館で司書をしている時のネームプレートには、そう書いてあったことも思い出す。


山本由紀子は、そのまま動いて冷蔵庫を開けてしまった。

麗は、慌てた。

まさかの動きだったから。


ただ、振り返った山本由紀子の顔は、実に怖い。

「あのさ・・・麗君・・・これ・・・何?」

「珈琲豆と水しかない・・・完全外食生活なの?」


麗は、うろたえながら答える。

「はい、ほぼ、その通りです」

何故、そこまで聞かれるのか、全くわからない。

フラフラの自分を大学医務室まで運んでもらって、またタクシーで送ってもらった恩義は感じるけれど。


山本由紀子は呆れ顔。

「昨日は何を食べたの?栄養のあるものは?」


麗は、ここで押された。

「あ・・・おにぎりを二個ほど」と、素直に白状する。


ただ、問い詰められたせいか、頭がまたクラクラしている。

また、寒気も復活した。

何しろ、今日の朝から胃に入った食物はないし、カロリーそのものを摂取していない。

とにかくベッドに横になりたくて仕方がない状態。


山本由紀子の目にも、麗のまたしてものフラフラ感がわかったようだ。

「うん、無理ね、少し寝なさい」

「あまりにも栄養不足、風邪というより、それが原因」


麗は謝った。

「すみません、ご迷惑を」

と・・・その言葉と同時だった。

麗は、山本由紀子に腕を組まれた。

「倒れられても困る、ベッドはこっち?」


麗は「はい」と答え、寝室に一緒に入った。

それより何より、麗が驚いたのは、山本由紀子も麗と一緒にベッドインしたことだった。


「布団はすぐに温まらない、だからこうする」

山本由紀子は、そのまま腕を麗に巻きつけている。

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