第27話京都本家からの届け物。麗と叔父晃の会話が始まる。

神保町から戻り、麗はいつものごとく、アパートの直近のコンビニで夕食を買う。

「昨日はおにぎり二個か、弁当でもいいけれど、美味しそうな弁当がない」

「おにぎりの種類だけを変えるか」

結局買ったのは、塩おむすびと、焼きおむすび、いかにも麗らしく地味なもの。

「このシンプルさがいい、余計な雑味がない」

麗としては、誇るべき選択と思っている。


その麗がアパートまでたどりつき、ポストから取り出したのは、宅配便の不在お届け通知。

「う・・・誰?」

「このシンプルな生活に物を届けようとするなど、実に不純の極み」

と思い、マジマジと不在お届け通知を見る。

そして贈り主の名前を見て、実に困惑する。

「おい・・・京都の晃叔父さんか・・・」

「何故・・・俺に?」


そのまま不在お届け通知を持ち、アパートに入り、また困惑。

「受け取らないでそのまま・・・は無理だろうか、無理だ」

「そもそも何を送ったのか」

「香料店だから、それに類するものか」

「いや、受け取らねばわからない」


麗は京都の叔父や香料店のことを思い出す。


「あの叔父さんは、好きだ」

「実の両親より、俺にやさしくしてくれた」

「京都の祖父さんもやさしかった、いつも源氏の話や京都の歴史を飽きるまで語った」

「高校二年の時は酒まで勧められた・・・祖父さん、元気かな」

「香料店は俺に継がせたいとか、そんなことも言った、酒に酔っただけと思うけれど」

「まあ、従兄の隆さんが、病弱なこともあるけれど」

「隆さんも、退院したのかな」

「たまには見舞して、話もしたいな」


珍しくセンチメンタルになっていた麗は、すぐに不在お届け通知からドライバーに連絡。

「今日の夜はいますので、よろしくお願いします」

宅配便のドライバーの返事も、スムーズなもの。

「かしこまりました、近くにおりますので、概ね一時間以内にお届けいたします」

麗は、ホッとして、不在お届け通知をテーブルに置き、珈琲を飲む。


「何が送られてくるのか」

「受け取って開けて見なければわからないけれど」

「お礼の電話でもしないとなあ」

「長くなるかなあ、仕方ないかな」


約40分後、そんなことを思いつつ珈琲を飲んでいた麗は、アパートのチャイム音とインタフォン越しの宅配便ドライバーの声を聞く。

「はい、申し訳ありません、ありがとうございます」

宅配便ドライバーから宅配便を受け取り、テーブルの上に。


それほど重くないので、麗は香料に関するものと判定、宅配便を開ける。


「予想通り、お香か、香炉まで入っている」

「薫物合わせそのもの、朝顔の斎院の黒方・紫の上の梅花、花散里の荷葉、明石君の薫衣香、侍従もある」

「香炉もかなりな高級品、こんなのもらっていいのかな」


麗は「お礼」も、すぐにしようと思った。

こういう時は、動きがスムーズ、口もなめらかになる。

「晃叔父様、ありがとうございます、麗です」

「素晴らしいものをいただきまして、感激しております」


叔父晃は、いつもの通り、麗にはやさしい。

「ついたようやね、安心した」

「どうや?変わりなくやっとる?」

「お母さんが心配しとった、ああ、俺もそうや、ここの店が全部心配しとる」

「身体に気をつけてな、若いからといって、無茶はあかんよ」


麗は、この叔父の言葉だけは素直に聞く。

「はい、ありがたいです、お気遣いをいただいて」

ひとしきり、都内やら京都の雑談をした後だった。

叔父晃の声が、いっそうやさしくなった。

「なあ、麗君、一度逢ってもらいたい人がおるんや」

「麗君の都合に合わせるから、あせらんでもかまへん」

麗は、少し首を傾げながら、叔父晃の次の言葉を待つ。

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