第26話三井芳香の自爆悲劇、高橋麻央は冷静な評価

結局、麗を見つけられなかった三井芳香は、落胆極まりない。

怒りも収まらないので、頭は混乱の極みとなりながら、久我山駅から家路をたどる。

その混乱のためなのか、飲めない日本酒四合瓶をスーパーで買う。


「どうなってもかまわない!」

「やけ酒ってのを味わう」

「どうせ未成年の麗には、酒なんて飲めない!」


自分でも支離滅裂と思うけれど、ここまで混乱してしまえば、アパートに入っても、日本酒を口に含んでは歩き回る。

そして口から出る言葉は、麗への文句ばかり。


「気に入らない、あの麗の奴」

「人前で恥をかかせ、素知らぬ顔で私に背を向ける」

「何様と思っているの?」

「たかが土臭い地方出身者でしょ?」

「この私に恥をかかせる?声を聞く資格もないくせに!」

「ありえないって!」

「田舎者は、源氏なんて読んではいけないの!」

「源氏は高貴な生まれでないと読んではいけないの!」

ついにはコップ一杯に日本酒を注ぎ、グイッと飲みほす。

「それが何?」

「高橋麻央に加えて日向先生まで、あんな評価?」

「私の立場はどうなる?」

「麗は食事の作法までほめられて・・・私は一度も言われたことない」

「田舎者のくせに、どうして、あんなきれいに食べられる?」

「反則だよ、それ・・・」

「侍従の香りもそう!何でわかる?」


三井芳香は、日本酒を再び、コップ一杯飲みほした。

それからまた、何度も同じセリフを吐き、部屋の中をぐるぐると歩き回ったためか、その頭もクラクラとしてきた。


「なんか・・・気持ちが悪くなってきた」

「吐きそう」

「あ・・・急に天井がグルグルしている・・・」

「マジ、やばい・・・身体・・・揺れる・・・」


三井芳香の身体が、大きく揺れた。

その頭の先に、トイレの開いた扉。


「ゴツ!」

三井芳香は、トイレの開いた扉に思いっきり、額をぶつけ、そのまま倒れ込んだ。


「痛い!」

「目が回る!」

「起きられない・・・」

「吐きそう・・・え・・・これ・・・血?」


三井芳香は飲めない酒を自ら飲み、酔いつぶれてトイレの扉で額を強打、出血。

それに嘔吐も加わり、そのまま失神、しばらく気を失うことになった。


さて、高橋麻央は不安を覚え、三井芳香と麗のやり取りを見ていた。

「結論としては、麗君が正解」

「三井芳香は、常軌を逸している」

「もとから少々の美形に過ぎない高飛車な女で、自信だけが取り柄」

「それが崩されれば、実に弱い」

「麗君の源氏知識と見事な作法、自分は出来ない作法に嫉妬して、恰好をつけようとして、飲めない酒を飲む」

「酔いつぶれて送られておきながら、まだ自分に女の魅力があると思い込む傲慢さ」

「そんなの能面でいて、実はハイセンスな麗君に通じるわけがない」

「三井芳香の源氏の解釈は、普通の高校生に毛が生えた程度、源氏を勉強する学生が少ないから誘っただけ」

「まあ、今後はお荷物、騒動の種、いなくなればなったほうがいい」


高橋麻央としては、三井芳香が麗を追いかけ走り出した時点で、三井芳香を見捨てている。

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