第38話 完成 ウナギの蒲焼ドン!
キャンプなどでご飯を炊く黒い容器。それの名前が
それでメシを炊く事を
その2つを合わせて――――
「
これなら、なんとなく口に合わないご飯でも美味しく食べられるような錯覚に陥る。
『こちら側』の水気が多いご飯も、水加減を間違えたと思えば……ご愛嬌の範囲内。
蓋緒を開けて、器に白米は盛る。その上にウナギの蒲焼を二切れ置く。
「これで、まずは1つ。本当なら山椒がほしい所だけど……」
気がつくと、オーガさんはもちろん、オーク夫妻も、ガイも、ゴブリンたちも身を乗り出して、こちらを見ていた。
その原因は簡単に想像がつく。
それは、ウナギの蒲焼の匂い。
甘みを感じさせる濃厚な匂いは、ウナギを食す事が未知の者にも、味を強烈にイメージさせる。
実を言えば――――この匂いを嗅いでから、亮は全身から力が抜けそうになっていく。
これがウナギの魔力。
力と意識が持っていかれるような感覚。
しかし、断固たる意思を持って拒否。 最初に依頼者であるオーク夫妻にウナギを差し出す。
「どうぞ。ご依頼の品です」
若奥さんの「本当に最初にいただいてもよろしいの?」と目配り。
旦那さんは「???」と状況がよくわかっていない様子。
まさか、「旦那さんの性欲が落ちてるそうなので作りました!」と説明できるわけもなく、亮は笑顔で「どうぞ」と言うだけだった。
オーク夫妻に勧めた後、他のメンツにもご飯を盛っていく。
「おいおい、よりによって私が最後なのかい!」
きゅ~ぐるぐるとお腹を鳴らしながらオーガさんは言う。
「いや、内臓が焼かれたオーガさんに食べさせてもいいものかと……」
「あん? お腹がヤケドしたのと、食べ物の何が関係が?」
「……」
体の内部から焼かれたのに、何か飲み食いするのは不味いのでは?
「いいから、早く! 早く食べさせろやい!」
まるで駄々を捏ねる子供のようなオーガさん。
「あら、オーガさんなら大丈夫よ。少々の事なら殺しても死なないのだからね」
オークの若奥さんの助言もあり、「それじゃ、仕方がないなぁ」と亮は冷蔵庫を開けた。
取り出したのはお茶。そしてウナギを細かく切りなおし――――
作ったのは即興のウナギ御粥おかゆ。
「せめて、御粥おかゆだったら内臓への負担も軽くなるかなぁ……と思って」
そう説明する亮。「うんうん」と頷くオーガさんは、心あらずという様子。
素早く、亮からウナギ御粥を奪い取ると口をつける。
「はぁ~美味い。活力が体に染み込んで行くような感覚。……なぁ、これって回復アイテムでも入れてるのか?」
「いやいや、入れてないよ!」と言いながら気がついた。
御粥だったら大葉の代わりに薬草を入れても良かった……と。
「さて、最後になったが――――いざ、開食を!」
肉厚で大降りなウナギを箸で崩し、ご飯と一緒に口に入れる。
まずはご飯に染み込んだタレが口の中に広がり、遅れてウナギがやってくる。
普段の俺なら、朝食のパンを加えた美少女ウナギが「遅刻遅刻」と通学路を走っているイメージを思い浮かべるだろう。
なるほど……確かにウナギの蒲焼丼は恋愛マンガに良く似ている。
ご飯にまでたっぷりと染み込んだタレは甘さは無論。しょっぱさも兼ね揃えている。
ウナギには、よく焼かれた香ばしさ。 つまりは、ちょぴりビターだ。
そして、ウナギそのもの弾力。ご飯の包み込むような優しさ。
それらは母性である。
母性――――母性とは! すなわち、女子力!
甘さ、しょっぱさ、ビター、そして女子力。それらが加わり……
いやいや待てよ。 冷静になるんだ亮。
流石にウナギの美少女化と言うのは安直と言うか、似合わないだろ? そんなの?
けれども――――
そんな俺の理性なんて、あっさり暗黒の意思の飲み込まれる。
まるでウナギの表面の如く、ヌルヌルと手から希望を滑り押しかねないほどの――――
暗黒の意思だ。
「遅刻遅刻! 転校初日に遅刻なんてカッコつかないよ。……あっ、ぶつかる」
ぶつかる瞬間に曲がり角から飛び出した白い影。
彼は身軽に美少女の体当たりを避ける。
急に避けられた事でバランスを崩す美少女。
「大丈夫かい?」
しかし、白い影は倒れ行く彼女の手を掴み、抱きしめるように彼女を引き寄せた。
それから――――
「それでは自己紹介を」
「あーアンタは!」
「あーお前は!」
「なんで、俺がお前と同じ係なんだよ」
「それは私のセリフ」
「いや、止めてください! 私は!」
「先輩、放してくれませんか? ソイツは俺のなんで」
「うまく行って良かったね文化祭」
「綺麗だな」
「うん、キャンプファイア」
「いや、そうじゃなくて……」
「???」
「知らねぇよ! 気がついた時には落としちまったんだよ」
「落としたって何を?」
「俺はお前に――――恋に落ちたんだ」
まるで恋愛マンガを1巻から最終巻まで一気読みしたような感覚!!
ウナギのタレのように甘じょっぱい物語が脳内に飛び回っている。
「ここに1つの物語が完成を迎えた」
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