第30話 新たな襲撃者?

「よう、横に座っていいか?」



 亮は驚いて振り返る。


 声とかけた人物は――――




 「なんだ、ガイか。聞いてるよ、毎日10匹分の食料調達で許されたってね」




 そこにいたのは黒い影の正体は外来種。数々のダンジョンを渡り歩いたゴブリンだ。


 このダンジョンでは、ゴブリンたちの集落を襲っていた。


 しかし、亮の介入により敗北を認め、現在はゴブリン集落の客将として過ごしているらしい。




 「あぁ、おかげでこの様だ」




 妙な返事だった。亮は訝しがりガイの方を見た。


 高い防御力と回復力を有している黒い靄。その隙間から赤い血液が漏れ出していた。




 「怪我……怪我をしてるのか!」


 「心配するな集落の連中は全員無事だ。俺が殿しんがりに立って時間を稼いだ」




 ゴブリンの集落を襲った存在がいる。


 その言葉に、益々不安感が積もる。




 「何があったんだ? 話してくれ」




 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・




 ガイは最初、黒いシルエットを見た瞬間に警戒心を強めた。


 自身の前に再び魔人が現れたのだと思った。


 だが、違った。 


 ソイツは不思議な鎧を装備した冒険者だった。




 丸みを帯びた兜。


 余計な装飾はない。気になるのは目の部分がガラスと言う事だ。


 肩、肘、膝といった関節部分にも丸みを帯びた防具を身に着けている。


 それ以外は分厚い衣服。 


 ごわごわとしていて、見た目から特殊な繊維だと見て取れる。


 手袋にブーツで素肌が見える箇所がない。首周りも、なにか特殊な素材で守られている。


 そして武器は――――




 わからない。


 近いのは、十字架を模した鈍器だ。


 しかし、鈍器にしては奇妙な構え。ワキに抱え両手で固定しているような――――




 襲撃者が現れたのはゴブリンたちの集落の前。


 門の上では訓練を重ねた兵つわものたちが弓矢を構えている。


 だが、ソイツは何かを投げた。 咄嗟の事でゴブリンたちは反応ができなかった。


 軽く曲線を描いて投げられた物は筒状の何か。 




 それが空中で爆発した。




 いや、あれは爆発ではない。 しかし、何が起きたのか分からなかった。


 視界が一瞬で白く染まる。 目潰しに特化した爆弾。それが後から分かっても遅かった。


 不意打ち気味に視力を奪われた恐怖からか?


 体が自らを守るように、反射的に頭を抑えて、腰が曲がっていく。


 一瞬で精鋭たちは無効化された。




 ソイツは呪文を唱えた。




 「火球(ファイアボール)」




 そこで初めてわかった。


 ソイツが小わきに抱えていた武器。十字架らしき武器の正体が、魔法強化用の杖だとわかった。




 『火球』




 初級魔法……そのはずだった。


 だが、落雷の如く轟音。 


 たった一回の呪文で何十発もの『火球ファイアボール』を使用したのだ。




 木製でありながら鉄壁。




 冒険者から、そう呼ばれていたゴブリンの門は、あっさり崩壊した。




 「撤退! 退避を急がせろ!」




 ゴブリンたちのリーダーであるゴブリンAが撤退を叫ぶ。


 その指示に従い、徹底準備を一斉に開始。


 だが、彼等の脳裏には――――




 (どこに撤退を? いや、どうやって撤退を?)




 出入り口である門が落とされたのだ。


 逃げ場はどこにも――――




 衝撃音




 見れば襲撃者は倒れていた。


 倒したのは――――




 ガイだ。




 どうやら、背後から近づき頭から地面に叩きつけたみたいだ。


 「おぉ!」と歓声が沸く。


 一方、ガイは――――




 「みんな、早く逃げろ! 押さえつけられるの僅かな時間だけだ」




 その言葉で一斉にゴブリンたちは撤退を開始する。




 ゴキッ




 ソイツの頭部を押さえつけていたガイの腕から異音が聞こえた。


 どうやったのかわからないが、ガイの手首が折られた音だった。


 束縛は緩むとソイツは地面を回転。まるでブレイクダンスだ。


 そのまま立ち上がると同時に膝蹴りをガイに叩き込んだ。




 至近距離での左膝蹴り。 




 ――――さらに右でもう1発。




 膝蹴りテンカオの勢いでガイが後方によろける。


 それにより生まれた間合いを利用して右ミドルが腹部に叩き込まれた。


 さらに一歩、間合いを詰めてから左ハイキック。


 蹴りの連続技。


 だが、ガイに効かない。強固な黒い防御壁は、単なる人間の打撃なぞ易々と無効化する。




 ――――そのはずだった。




 切り裂くような肘打ち。手刀に貫手。


 打撃の連携は、黒い靄をかき消すような鋭さを有して――――




 無防備になったガイの顔面に右掌底打ちが叩き込まれた。




 さらにステップイン。間合いは零距離に。 




 打撃ではなく、投げ技の距離だ。


 襲撃者は、掌で顔面の掴んだまま、開いた左手でガイの腰を押さえると投げ。


 ガイの後頭部を地面に叩きつけた。




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