第31話 襲撃者の正体 そして激闘直前

 襲撃者の正体は女性だった。


 かつて『宮廷魔術師の3姉妹』と言われていた内の1人。


 その二つ名の通り、とある国で宮廷魔術師の任についていた。




 宮廷魔術師。 




 簡単に言えば、王室御用達の魔術師である。


 魔法関連の相談役が主立った仕事――――表向きは。


 では裏側は?




 ――――5年前、とある国で――――




 国に不満を募らせていた過激派が暴走。


 お忍びで歌劇場に来ていた第3皇女を人質に取ると、現国王の退位と貴族院の解散を要求。


 それを鎮圧したのが、たった3人の魔術師だったと言われる。




 S(シークレット)A(アタック)F(フォース)




 『あちら側』の特殊部隊を参考に組織された部隊。


 詳細は公にされてはいないが、魔法職のみで編成された単独特別部隊だと言われている。 


 敵は強固な魔物とは違い、人間を想定しているため従来の魔法職のように極限魔法などの大規模攻撃魔法を使わない。


 殺傷力をギリギリまで落とし、速射を高めるために初級魔法を主に使用。


 魔法の長時間連続が攻撃の特徴。


 そのため銃器の代わりに魔石を込めた特殊形状の杖を装備する事で魔力切れを防ぐ。


 本来の魔法職は、後衛として前衛に守られながら魔法を使用するという基本戦術を否定。


 単独突入を目的に対人戦闘のみを特化した部隊だったと言う。




 だが――――




 その特殊部隊編成において行われた特殊訓練が意外な効果を発揮した。


 単騎で狭い建物内を制圧しながら進むスタイルは、ダンジョン攻略にも十分に通用する事がわかった。


 魔法職が単独でダンジョンを進んでいくなど、本来は不可能なのだ。




 さて――――




 なぜ、そのメンバーの1人が、このダンジョンへ?




 王室存続に関わる宝が眠っているから?


 それとも王子や姫が身分を偽ってダンジョン見学に来て、そのまま行方不明になったのか?


 はたまた、王や后の奇病を治すための薬の材料が生息しているから?




 いずれも違う。




 襲撃者は、周囲の安全を確認すると兜を――――ヘルメットを脱いだ。




 「待っててねチートくん。私が迎えに行くからね!」




 そう、その中身は賢者さんだった。




 ・・・


 ・・・・・


 ・・・・・・・・




 その頃、亮は――――


 出血が多すぎたらしく、意識が朦朧としてるガイを背負って、オーガさんの住処の戻っていた。


 連日の野良作業と激しい料理で体力が増しているのかもしれない。


 それなりに長い道のり。息を切らさず、早歩きでたどり着いた。


 普段以上にガヤガヤと人気が感じる。


 中を覗くとゴブリンたちがいた。


 その中の1人がこちらに気づく。ゴブリンAだ。




 「これはこれは亮さま。ガイも無事……とは言えない状況ですね。すぐに治療しましょう」




 ガイをゴブリンAたちに預ける。 


 亮は、そのままオーガさんを探すとすぐに見つかった。


 まだオークの若奥様も一緒だ。




 「話は聞いたみたいだな。なんかヤバイ冒険者が来たらしいから、ゴブリンたちをここに避難させた」


 「これは料理している場合じゃないみたいだね。とりあえず、ウナギは保存しとくよ」




 「そうですね。残念ですが」とオークの奥様。


 「しかし、どうなされるつもりですか? オーガさん」と続ける。




 「この被害が無視できない。……すでに死者が何人も出ている」




 亮は気づいた。


 オーガさんが強く強く握り締めた拳から一筋の血が滴り落ちているのを……


 そして亮は知っていた。


 オーガさんは、ダンジョン内の魔物を家族のように想っている事を……




 毎日のように、このダンジョンでは冒険者が現れ、魔物を殺している。


 ダンジョンで死んだ冒険者が生き返るように、ダンジョンで死んだ魔物も生き返る。


 転生という形で記憶と意識を持ったまま生き返るのだ。




 だからと言って――――


 生き返ると言っても――――




 殺されていいはずはない。




 生き返り、殺され、そして生き返り――――




 それを受け入れれば、この世界は魔物に取っての煉獄。




 だから、オーガさんは――――




 「行く」と短く呟いた。


 だから亮もこう言った。




 「俺も行くよ」




 オーガさんは目を広げて驚いた。




 「ばか、お前がついてきた所で、何もできないだろ」


 「何もできなくても、一緒にいる事だけはできるよ」


 「そういう話じゃなくてだな――――」




 オーガさんの言葉は、そこで途絶える。


 それは、殺気が届いたからだ。 戦闘に無力で無知な亮ですら理解できる濃厚な殺気。


 「――――すでにいる。門の外」と亮。


 オーガさんは頷き、警戒を強める。




 そして、門が開いた。




 


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