第29話 オークさんちの若奥様


 トントンと控えめのノックが響く。




 「ごめんください。オーガさん」




 女性の声だ。


 いや、女性と言うよりも、まだ少女のような幼さが残っている。




 「おっ、久しぶりに来たか」とオーガさん。


 どうやら、普段よりも機嫌の良さが声でわかる。


 待ち人……もしかしたら、オーガさんの友達なのかもしれない。




 「本日は……」


 「いつも言ってるけど、堅苦しい挨拶はなしだぜ……おいおい! そんな悲壮な顔するんなよ。わかったよ。では、お手をどうぞマドモアゼル」 




 まるで宝塚歌劇団の一幕のようだ。男役のオーガさんを客人の手を引いてエスコートする。


 「一体、どういう間柄なのか」と疑問を挟む余裕は亮に残っていなかった。


 今日の客人は巨体だった。 


 本日の客人 所謂、オークと言われる種族の女性だった。




 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・




 さて、オークと言えば?


 ファンタジーでは悪の軍団の兵士。戦闘員として登場する事が多い。


 人間のような体に豚や猪の頭部を持つ魔物だ。


 それが、そのまま亮の目前に存在していた。




 「彼がダンジョンで噂になってる貴方の恋人?」とオークは言う。


 しかし、オーガさんは――――




 「はぁ? 何を言ってるんだ? コイツは私の恋人なんかじゃねぇよ」


 「へぇ~ じゃ、どういう関係なのかしら?」




 「……ふ、夫婦だよ」と顔を真っ赤に染めるオーガさん。


 その姿に、自然と亮の顔も赤くなる。




 「あら、初々しいわね。 夫婦というよりも恋人らしさが残っている感じがして……」




 「あれ?」と亮は違和感を受けた。オークの表情に一瞬だけ陰りが見えたのだ。


 それはオーガさんも同じように思ったらしく――――




 「どうした? 何かあったのか?」




 真剣な顔をで問う。


 すると「聞いて、オーガちゃん!」とオークは勢い良く泣き始めた。




 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・




 このオークさんは同族のオーク(♂)と結婚して1年目の新婚さんらしい。


 ならば、どうしてマドモアゼルと未婚女性を示す言葉をオーガさんは使ったのか? と疑問があるが、どうも、2人の間での挨拶みたいな言葉になってるみたいだ。


 話をきいてみるに、このオークの若奥様は新婚生活の不満を愚痴にこぼす事が目的――――もとい、夫婦仲改善を相談するためにきたらしい。




 「初めて出会った頃は、3日間はベットの中から離してくれなかったのに…… 今じゃ仕事で疲れた。してくれても夜が明ける前には寝ちゃって、彼の愛を感じられなくなっちゃったのよね」




 ため息混じりにオークの若奥様はおっしゃるが……


 内心で亮が叫んでいる言葉を表すならば――――




 「オークの繁殖力半端ねぇて!」




 という感じだった。




 「それで、貴方たちはどうなの?」




 「どう?」と疑問符を浮かべる亮。


 一方のオーガさんは――――




 「そ、そりゃ、普段は頼りない奴だけど、意外と逞しいと言うか……私もどちらかと言うと攻めるよりも攻められる方が好きと言うか……」




 「ちょ!? オーガさん!! 何言ってるんですかッ!??!」




 そんな事があったり、なかったり……


 ……というわけだ。


 要するに新婚にも関わらず、夫婦生活がうまく言ってないオーク夫妻をなんとか解決しようという流れになったのだ。 


 しかしながら、亮にできる事は限られている。


 もはや、魔物たちの悩みを料理で解決するのがパターン化してる言っても過言ではないのだが……


 やはり、今回も料理的アプローチを仕掛けてみる事になった。




 今回はシンプルだ。




 夜の夫婦生活の円満化が目的。だから、ウナギなのだ。  


 ウナギの精力増加効果に期待してみた。


 どうして、ウナギが精力増加に繋がると言われる食材かと言うと――――


 ウナギに含まれているビタミンA、ビタミンB、ビタミンE、亜鉛の効果らしい。


 特に亜鉛と言えば、コンビ二で売ってるサプリメントでも、そういう効果の主張が激しい。




 さて――――


 そんなこんなで、亮はダンジョン内で生息している竹のように撓(しな)る植物を採取。




 命を落とした冒険者の荷物から糸を拝借。


 地面を掘って、謎の幼虫を捕まえて餌に使用。


 そうやってウナギ釣りに挑戦していた。 




 つまり、物語はここで冒頭に戻る……と言う奴だ。


 しかし、ウナギを釣り上げて気分が上々となっている彼は気づいてなかった。


 自身の背後に影が近づいていた事を……




 



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