第21話 ゴブリンの村と外来種
「ダンジョンの中に集落か……」
亮は少し驚いた。
ゴブリンたちの住処は、人間の村と良く似ていた。
木で作られた杭でできた壁。 木製の門は見張りは2匹。
その2匹は弓矢を構えている。 もしも事前に連絡していなかったら、高みから矢で射抜かれる事になっていただろう。
門の前に立っていた依頼者のゴブリンは深々と頭を下げた。
「お待ちしていました亮さま。こちらへどうぞ」
開かれた門を潜れば、そこはゴブリンの世界だった。
簡易的な木と藁でできた家。 普通にゴブリンたちが生活している。
その中を歩く亮を、時々、注意深く見つめる固体がいる。 たぶん、子供のゴブリンなのだろう。
「ゴブリンの集落ではゴブリンと呼んでも誰の事かわからないでしょう。私の事は、そうですね……ゴブリンAとでもおよびください」
ゴブリンAはそう言った。
暫く、ゴブリンAと集落を見て周りながら、疑問に思ったことを聞いた。
「集落の規模にしては数が少ないように思うのだが?」
「えぇ、基本的に昼間には男衆は外に出ます」
「外? ダンジョンの外ですか? それとも、この集落の外ですか?」
「その両方です」
「両方?」
「えぇ、ダンジョンの外へ遠征して食料を調達する者。ダンジョン内部で冒険者の動向を監視、あるいは攻撃する者。この2種類に分けられています」
「その……遠征と言うのは、人の村を襲うと言う事ですか?」
ある種の覚悟を持って質問だったが、ゴブリンAからの返答は――――
「いいえ、違います」と肩透かしを食らうものだった。
「このダンジョンの主であるオーガさまは、無益な殺生を好みません。殺していいのは殺そうとしてくる者。あの方が主になったときに決めた鉄の掟です」
「鉄の掟……」
亮は初めてオーガさんと会った時を思い出していた。
襲われて、助けられて、それから求愛され――――
「当時は魔物らしくないと反発して、ダンジョンから去った個体もたくさんいました」
「ゴブリンさんはどうして?」
「はい?」
「どうして、出て行かなかったのですか?」
その問いにクスッと笑った。
「ここを出て行かなかった魔物たちは、みんなオーガさまが好きなんですよ」
そして、こう続けた。
「もちろん、貴方様ほど、あの方を愛している者はおりませんがね」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
暫くすると遠征組が帰ってきた。
最初はダンジョン内を周るグループ。 その後にダンジョン外に出向いたグループ。
前者は冒険者から奪ったと思われる食料と装備を配分。
後者は狩りで得たと思われる動植物を分配する。
その様子を見ていた亮には疑問が過ぎった。
「う~ん、見た感じだと、どこも問題点はないように見えるけど、どうして団結力が必要なんて依頼を?」
「え? あぁ、それはですね……」
だが、ゴブリンAの言葉を途中で止まった。
それを止めたのは、激しい振動とけたたましい咆哮。
「――――なっ!?」
何が起きた? その言葉すら飲み込まされるほど強い衝撃を受けた。
亮だけではなく、ゴブリンたちにも混乱が見える。
すると――――
「奴だ! 奴が現れた!」
見張り番のゴブリンが門の上から叫んだ。
すると、いち早く正気を取り戻したゴブリンAが指示を飛ばす。
「子供や女は小穴を使って避難しろ! 男は弓を持て!」
そのまま、細かな指示を出し続けながも、駆け出した。
それを亮は追いかけ、門の上まで駆け上がった。
そこで見たものは――――
「何だ?ありゃ……」
ゴブリン……だろうか? フォルムはゴブリンに違いない。
しかし、巨大すぎる。 2メートルはあろう巨体。
色は黒い。 いや、体の色だけではない。
体の周囲には禍々しい靄もやが立ち上っている。その靄の色も黒色だ。
「あのゴブリンは我々と違います。あれは外来種です」
「外来種?」
「えぇ、ココとは異なるダンジョンで生まれ、何らかの理由で変貌を遂げた魔物をそう呼んでいます」
「もしかして、アレを倒すために俺の料理を?」
「えぇ、私たちの敵を倒すために。外来種と冒険者から、ここを守るためにです」
外来種は宣戦布告と言わんばかりに再び咆哮を上げた。
それは強風を生む。そして、聞く者は内臓がせりあがっていくような圧力。
「――――ッッッ!?」
恐怖心から、体が震え、思考が停止する。
「亮さんも下がって、避難してください!」
ゴブリンAはそう言うが、亮は体を動かせなくなっていた。
いつの間にか門の上で並んでいたゴブリンたちは弓を構え、弦を張り詰めさせる。
ゴブリンAが下す「放て」の号令で矢を飛ばす。
しかし、外来種は――――
両手を広げ、天を仰ぐ。
まるで、砂漠地帯で待ちわびた雨を浴びるように――――
全身で矢を受けた。
不思議とソイツが笑っている事がわかる。
全身を射抜かれて苦痛を感じるよりも快楽が溢れ出ている。
そして、ソイツは腭(あぎと)を開く。
開かれた口内――その奥にある喉から見えるは赤い炎。
周囲にばら撒いた咆哮の如く、今度は火炎を放射した。
狙いは、門の上。
その中心にいた亮に向って――――
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