第20話 魔法獲得と新たな料理依頼?

 亮が意識を集中させると指先に火が生まれる。 


 「凄い。本当に炎が出てきたぞ」



 確かめるように指先を上下左右に動かしてみる。  


 どんなに激しく動かしても火は消える事がなかった。



火球ファイアボール



 そう唱えると火は球体状に変化。指の動きと同調シンクロして発射された。


 キャッチボールくらいの緩やかな速度と距離。


 地面に接触すると小さな火柱が上がり、そして消えた。



 「おぉ……本当に魔法だ」



 若干の感動。 


 まるで初めて野球ボールを買い与えられた少年のように何度も何度も魔法を唱え――――


 「……さて、畑の世話をするか」



 暫くして飽きた。


 ダンジョン内の小川に水を汲みに行こうと思ったが、客人が現れた。



 「ごめんください!」



 と現れた魔物はゴブリンだった。



 ゴブリンとは何か? 曰く――――


 ゴブリンは精霊である。


 ゴブリンは妖精である。


 ゴブリンは幽霊である。


 ゴブリンはドワーフである。



 「いや、結局なんだよ」と言いたくなる魔物だ。



 小柄で細い手足。緑色の皮膚。長い鼻と耳。ぎょろりとした眼。


 最低限の箇所を隠すためだけの衣服。 冒険者から奪ったらしい武器。


 聞く話では、性格は狡猾でありながらも、決して賢いわけではない。


 自我が強く、仲間同士でも協調性が欠けるらしいが、それでも集団生活をしている。


 個々の戦闘能力は弱いが、数の多さを武器に敵を圧殺するタイプの魔物だ。


 そんなゴブリンが何のようかと思っていると――――



 「実は、オーガさまが迎えた旦那さまの料理を食べると……その、強くなると聞きましたので……」



 その言葉に亮は天井を仰いだ。 魔物たちの間で噂になってるなんて……

 

 「誰が言いふらしているんだ!? まったく!」と亮は少しだけ怒りながらも客人であるゴブリンの接客を開始した。


 スライムのスラリンの時と同じで、料理を食べて強くなるのは一時的なものだと説明する。



 「いえ構いません。その話はスライムのスラリンが聞いております」


 「それじゃ、どうして?」


 「スラリンから聞いた話で心が揺さぶられたのは、安易に食べた者を強くする料理などではありません。スラリンは強くしようとした貴方様の懐の深さ。そして、その手腕なのです!」



 「……え? あっ、はい?」と熱弁を始めるゴブリンに驚いて、少し後ずさりを始める亮だった。


 しかし、そんな事に気がつかないゴブリンの熱量は、どんどん増していく。



 「私たちが望む強さは個々のものではなく種族としての強さ。そう! 我々の団結力が強まるような料理を振舞っていただきたいのです!」



 「食べると団結力が強くなるような料理……ですか?」と亮は頭を悩ませた。


 そして――――



 (よし! 今回は断ろう!)



 そう結論付けた。 その理由はいろいろあったが――――



 「なんだ? 面白そうな話をしてるみたいじゃねぇか!」



 亮とゴブリンは声の主を見る。


 このダンジョンの主であるオーガさんだ。


 いつの間にか散歩に出かけて、いつの間にか帰還していた模様だ。



 「これはこれはオーガさま。お留守のようでしたが、あがらせていただいています」


 「なに、気にする事なねぇよ。それより何か? 亮に料理の依頼か?」


 「はい、我々、ゴブリンが円満な人間関係を――――いえ、円満な魔物関係築かせて貰い、戦いの連携がうまくいき、何よりも団結力が上がるような料理を所望させていただいています」



 ゴブリンはペコりと頭を下げた。



 しかし、いつの間にか料理の依頼が、ただ団結力を上げる料理ではなく――――


 円満な魔物関係の構築。 戦いの連携強化。


 この2つが加えられていた。



 げんなりとする亮とは逆にテンションが上がっているオーガさんは――――



 「よし、面白そうな依頼じゃねぇか。その依頼! 確かに引き受けたぜ!」



 勝手に承諾してしまった。



 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・



 団結力が高まる料理。


 それを聞いて亮が断ろうと思った理由は、何も思いつかないのではない。


 むしろ逆だった。


 あの瞬間、亮の頭では、焼肉や鍋料理といった選択肢がいくつか浮かんでいた。


 しかし、亮は学習していた。 


 それを口にすると、今度は牛の解体から始まってしまう事を……



 流石に牛の解体は無理だ。 いや、本当に牛ならいい。


 しかし豚がほしいと言った結果、猪を狩りに言ったオーガさんだ。


 牛がほしいと言ったら、ミノタウロスを狩り行く可能性がある。


 ミノタウロスの血抜き? ミノタウロスの解体?


 HAHAHA……ご冗談を。


 ……いや、そもそもミノタウロスって父親である王様が神様から借りた儀式用の牛を返却しなかったから、怒った神様が后が牛に惚れてしまう呪いをかけて生まれた生物じゃなかったけ?


 もし、この世界にミノタウロスがたくさん存在しているとなると――――




 そんな事を亮は考えていたのだった。


 さて、結局は本人の意思とは無関係に依頼を受けてしまった亮。


 まず最初に行う事はゴブリンの生態を調べる事だった。


 依頼者のゴブリンと事前に許可を得えてゴブリンの住処に向う事した。


 


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