第30話 旅行⑥ アカーシャ
「おい、オク、マツ君そろそろ場所移るぞ」
シノブの横へと並ぶレン。
どことなく機嫌がいいみたいでサトルはほっとするも会話の内容に緩く首を傾げた。
「準備はいいのか」
状況を把握している様子の奥崎。
機嫌良さ気に笑顔で応えるレン。
サトルも戸惑いながらも数回頷いた。
空になったグラスを対面式テーブルへと乱暴に置いて。
シノブが小さく舌打ちをした。
「……レン先輩また身長伸びた……?」
「え? あ、そうじゃね? 俺らまだ育ち盛りだからな。マツ君も伸びたよな~結構チビだったと思ってたけど。神崎は……どうしちゃったんだよ?」
自然に浮かび上がるレンの含み笑い。
並ぶと一目瞭然。
シノブは気付けば身長の伸びたサトルへと愕然とした表情を浮かべて。
「お、お前俺とあんま大差なくなったんじゃねえのか!? いつの間にだよ! ムカつく!!」
シノブがサトルを指差して吠えるも奥崎の辛辣な笑みがその場を払拭する。
「あ、俺らこれから忙しいからチビゴリラはミナミとまだ遊んで貰ってろよ」
――うわ
サトルはそう思いながらもフォローする言葉が見つけられなかった。
二階へと階段を上がって廊下をずっと先へと進むと曲がり角。それから少し歩くと両面の茶色の扉がある。
隣を歩く奥崎へと顔を上げる。
自分へと注がれる笑み。
サトルは不思議そうに奥崎を見つめるも前方ドアが開かれる音が聞こえた。周囲を見てもメンバーは嬉しそうな笑み。自然に胸が高鳴った。
「来い、サトル」
熱く感じる奥崎の手が自分の腕を捕らえて。
花の香りが鼻先を掠めた。
眩しい室内は広々として。
後から入ってきたキョウイチの感嘆のため息。
サトルも少し高い天井を見上げてから室内を見渡す。
そこには。
いつの間にか運び込まれた機材。
マイクスタンド。
見慣れたレン、奥崎のベースやギター。
サトルは呆然とその前に立ち尽くした。
――うそ
嘘のような夢にまで見た光景。
「え……」
大きく開かれた瞳に映る光景。
自分へと笑顔を向けるヒサシやレン。
それから奥崎。
サトルはゆっくりとマイクスタンドへと歩き出した。
指先に伝わる冷たい銀の熱。
知っている感触。
目に浮かぶ白、赤のライト
目の前の闇からの歓声
空気を描くスモーク
立ちはだかる漆黒へと叩き付ける様に
歌う
高鳴る心臓
地の底から打ちつけてくる音
重なる、重低音
「さて、やってみるか」
「そうね! 早速やりましょう! マツ君、お願いね」
気合い充分なレンの声。
ヒサシもマイクスタンドの横に佇むサトルの肩を叩いて後方ドラムへと向かう。
状況が嘘のようで未だにうまく飲み込めないサトルは足がうまく動かせない。
「松崎先輩、歌える?」
挑発的な口調のキョウイチは室内の横に積まれていたイスへと手を掛けながら嫌味を込めた笑みを見せる。その傍でシノブがキョウイチへと舌打ちをひとつ鳴らすもサトルへとマイクを持つように動作で指示する。
バタン、とドアの閉じる音。
サトルが振り返るとそこには室内を興味津々に見渡すシギとこちらへと意味深な笑みを浮かべるコウジの姿。
「松崎! 歌え歌え!」
陽気なシギの声。
サトルは小さく笑うもマイクを握る手が汗ばんでいることに気付いて顔を顰めた。
――緊張、してる
突如鳴くギターの劈く音。
レンの指先が弦を弾く。
引き寄せられるかのように後方からの重いリズム。
いつになく真剣な眼差しを見せるヒサシ。
サトルはごくりと生唾を飲んだ。
室内、壁に凭れかかり腕を組んで見据えてくる渡辺。
その横で浮かない表情のままのマコト。
イスへと行儀悪く座りながらも無邪気な笑みを見せるキョウイチ。
意地の悪い笑みのシノブ。
その横で楽しげに見つめてくるミナミ。
ペットボトル片手にいつもの気さくな様子のシギ。
それから。
サトルの目がコウジを捕らえた。
妖艶に笑む、漆黒の瞳の奥。
薄い作りの口元。
目の前にいると思う位。存在感が肌を掠めるように感じる。
コウジ。サトルが苦手だと感じるカウゼルのヴォーカリスト。ライブも何度か観て。圧倒的なその声に地に足がついていられないほど揺さぶられるような世界へと引き摺られた。バンドの奏でる音さえも敷いて歌へと色をつける声。仕草、瞳の動き。全てがまるで計算されたようにライブ上の世界を作り上げる。
――観察されているようなその瞳が嫌い
サトルはマイクを持ったままコウジから目が離せなくなった。挑発的なコウジの笑みにサトルは薄く息を吸った。
「サトル」
ベースを構えた奥崎の声が聞こえたような気がして。
遠慮がちにサトルが奥崎へと顔を向ける。
きっと情けない顔をしているだろう。
たじろいで泳ぐサトルの瞳が奥崎の口元を見つめた。
「楽しめよ」
知った重低音のリズム。
同時に周囲から立て続けに鳴り出す音、音、音。
マイクを握る手の感覚はない。
緊張と軽い震え。
スタンドの前に立って。
真っ直ぐに前を見据える。
爆音。
高揚感。
――もう戻れないと思った。失ったものだと思った。でも。それでも。ここが。
――俺の居場所だ。
サトルの目がゆっくりと閉じた。
視界を暗くして漆黒の闇を作る。
耳へと警鐘のように鳴り続けるアカーシャの音。
造られた世界に心臓の音が重なる。
深く吸い込む。
重いベースのリズム。
喉の奥の奥。
身体の深い場所からマイクへと浴びせるように。
――声を放つ。
広々とした室内は熱気を帯びて、サトルの額から落ちた汗が床へと音を立てた。鳴り止まないレンの鋭いギター音。奥崎の指先が重いリズムを弾いて、ヒサシが重ねて音を打ち込む。
ここには照明もなにもない。
単なる広い室内なのに。
音はどこまでも静寂を破る。
侵蝕した空間に奏でるサトルの歌声は叫びのようにも聞こえて、シノブが複雑な表情を歪ませてから皮肉そうに笑んだ。
「なんとも、衰えを知らねえのか、あの欝病野郎……」
鮮明に、手に取るように覚えている。サトルの痛々しかったあの姿が有りのまま瞼の裏に甦っては消える。もう歌えないと思っていた。居場所すら探せず、声すら失ってしまったサトル。今度こそ死んでしまうのではないかと、思ったこともある。
でも、あの声は確かに復活を遂げた。
肩の荷が下りたように体は脱力して、シノブはそのまま床に座り込んだ。
マイクを持つサトルはいつもの危うささえも武器に己の全てをむき出しにするように歌う。それを支えるように正確に音を奏でる奥崎はいつになく穏やかで。シノブは無性に悲しくなった。
――顔を上げて、いられない
そう思うと自然に頭が下へと垂れた。
「どうしたの? ゴリラ君」
頭上から聞こえるミナミの声すらアカーシャの音に飲まれてしまいそうで。シノブは睨みつけるように自分の横で優雅な笑みを浮かべて見下した様子のミナミに苛ついた。
「うるせえな、黙れよミナミ」
「そんなに松崎が歌えるようになったのが悲しい?」
「あ?」
うまく、聞き取れない。
それでも不快に感じるこの感覚。
ミナミのその不敵な表情が嫌いだと思った。
「俺を見下すんじゃねえ。俺とお前はいつだって平等だ。つうかてめえには関係ねえ」
「そう? なんかね、君が珍しく悲しそうに見えたからどうしたのかと心配したんだけど」
「はぁ? 俺が何で悲しいんだよ」
「さぁ? 知らないけど」
無責任なミナミの言葉。シノブの苛立ちは増幅されるも目の前にいるサトルの声に抑え付けられている感覚に顔を歪ませるだけだった。
――悲しい? ……俺がか? いや、寧ろ俺は嬉しいんだよ。あいつがまた歌えるようになって、あんなに全力で、まるでいつもの影すらねえ。……ちゃんと自分の足で立って、立って
「仲間外れだからじゃない? あの場所に君は必要ないでしょ」
ミナミの冷えた口調。
シノブが座ったまま凍りついたように刹那固まる。
――必要、ない?
脳裏で繰り返す言葉。シノブの目の前にあるステージ。鼓膜に連続して投げつけられる音とサトルの歌声。声が出ないとショックで震えたあの頃の面影すら嘘のように吹き飛ばす光景。見たかったものだ。それは今、眼前にある。感情の波を突き破って日常の全てを塗り替えるサトルの姿だ。
――その隣にはいつだって奥崎がいて。
――隣にいるのは、俺じゃねえ、から?
ひどく頭を殴られたような、そんな重い感覚。手の甲に感じた、熱。ふと視線を下げるとパタパタと熱を込めた水滴が自分のジャージに染みを作るように吸い込まれていく。
「へ……?」
感覚を覚えなかった。いつの間にか頬を伝って流れていた涙だったと理解するまで数秒。シノブは驚いてすぐさま涙を指先で何度も拭う。
――ああそうか、始めっからそうだったじゃねえか。俺もつくづくバカだったな。オックだからこそサトルをあそこへ連れて行けて、オックだからこそ、今サトルが歌えて、サトルが居たいのは……そこなんだな。
「あいつはとっくに自分の居場所見つけてたんだな……バカは俺か」
脱力したように、それでもシノブの声は穏やかだった。
「心配性なんじゃないの? ゴリラ君は」
「ああ、違いねえ。俺も諦め悪かったけど……まあなんか、よくわかったわ……」
そう言うとシノブがようやくいつもの皮肉めいた笑顔を緩く作った。
――お前が幸せならそれでいいって、ようやく、腹の底から思える
酷く辛く、どこか軽くなった胸の奥にシノブが部屋の天井を見上げた。ここにはいつもアカーシャを照らす照明も暗闇もない。それでも体へと振動を与え続けるこの凶暴な音はどこか気持ちを穏やかにさせた。
「じゃあ、君はもうちゃんと気持ちに諦めつけれた?」
どこか、優しさを込めたミナミの言い様にシノブは鼻先で笑って。
「お前ほんとめちゃくちゃ言うな? こっちドン底だぞ。まあ、こんな目の前で見せ付けられてわからねえ程バカじゃねえよ。ちゃんと……」
言葉を食われて、己の口元へと塞ぐ何か。
シノブは驚きのあまり瞳孔を開いた。
眼前にはミナミの長い睫毛。
そこからうっすらと見える色素の薄い茶色の瞳。
己の首をいつの間に捕らえていたのか、ミナミの長い形のいい手がシノブの顔から離れない。
「カンちゃん! 不潔ーーー!」
そう言って狂ったように甲高い声で笑うマコトの声。
周囲もこちらの状況に気付いてキョウイチがつられて声を上げたのが耳に入った。
――う、……うあ!
「っ! て! てめえ!!!」
シノブが全身の力を込めてミナミの手から逃れるが、ミナミは不思議なものを見るような目でシノブを見つめてから緩く首を傾げて。
「あれ? まだ諦めてないの? おかしいな」
「何言ってんだ! このキス魔!! 死ねこのオンナオトコ!」
口から出る罵声。上がってしまった息。口元に余韻のように残るキスの感触。サトルへと目を向けるもこちらに気付く様子もなく、マイクを持って奥崎と歌の合間に笑んだ表情はただ穏やかで。
治まらない呼吸。それから胸の深い奥での鼓動。
嬉しいんだか悲しいんだか嫌なんだか分からない。
目の前にいるミナミがまともに見られない。
「神崎、顔赤いよ」
ビール片手に目を細めて笑うコウジの言葉。
シノブは動揺が隠し切れずその場に倒れこんだ。
続く周囲からの笑い声。
遠くでシノブへと笑みを零すサトルの顔が擦れて見えて。シノブはひどく疲れて肢体を投げ出し爆音の中、しっかりと自分のため息を耳にした。
自然に曝された冷たい風が全身の熱を奪うように吹き付ける。
額に滲んだ汗はその形を失い、サトルは広い室内の窓を大きく開けた。緩く流れる体の血液。未だ冷め遣らぬ興奮。まだ、後方から聞こえてくるドラムの音。
珍しくもヒサシとコウジが話している様を見た。
同級生でお互い大学へ行ってる身だもんな、とぼんやりと思ってから首を緩く回す。室内を見渡すと楽しげに笑っているシギとキョウイチ。それから疲れた様子のマコト。他の人間の姿がいつの間にか見当たらなかった。
――神崎がいない
――どこに行ったんだ……?
そう思うもどこを見渡してもその姿はない。
乱雑に置かれたいくつものペットボトル。
菓子。
ビールの空き缶。
サトルは再度見渡すもシノブの姿はなかった。
「どうかしたか」
声をかけられて。振り返ると奥崎がビール缶片手にこちらへと歩いてくる。サトルは落ち着かない様子で頷く。
「あ、うん……神崎がいないなと思って……」
「あ? あいつなら飲みすぎて部屋にさっき戻って行ったみたいだけどな」
「え、そう、そうか。珍しいな。神崎でも飲んだりするんだ」
「慣れねえことするから負けんだろ」
「疲れてたんじゃないかな。生徒会とかでも……忙しいみたいだし」
奥崎の言葉へとシノブを庇うようにサトルが意見を述べるも奥崎は鼻先でそれを笑って。
「ちょっと、出ようぜ。あちぃ」
と、強引にもサトルの手を取ると出口のドアへと歩き出す。自分よりも高い熱を発する奥崎の手。心臓は更に高鳴る。
雑音にも近い乱暴な音が響く部屋から出ると一気に静寂が耳を触った。しんと静まり返った廊下に奥崎の足音だけが聞こえる。いつまでも繋がる手と手。サトルはぎこちない表情でその手を見つめては目を反らした。
心の内から込み上げてくる己の熱い感情。
うまく表現できないこの状況にサトルはどうしていいのかわからない。
階段を無言で降りて。
誰もいないホールへと二人が着くと、奥崎が手前のソファへと座るように顎で示唆した。
柔らかすぎるソファは包むように体を沈めて、サトルは何度か座りなおした。
その正面で奥崎がビール缶へと口を付ける。
目に入る大きな手。
切れ長の漆黒の瞳。
自分も身長が一年の時よりも伸びたはずなのに。
奥崎はもっと先を歩んでいるように大人びたような気がして。見慣れていたはずの横顔すら、まるで知らない誰かのような。
「オクさん」
思わず相手の名を呼ぶ。当たり前のようにいつもの無表情な顔で奥崎が自分へと顔を向ける。
苦手だと、思っていたこの人が特別な存在になるなんて思ってもみなかったことだった。何を考えているのかも知らなかった。こうして二人で時間を共有するなんて想像もしていなかったけれど。こうして二人であれから何度か過ごす日があって。その度に流れる己の体の血が熱く高鳴っていくのを知っている。
瞳が勝手にこの人を選ぶ。
欲しいものを悟る。
届かないではなく、触れたいと思う。
常に無表情でも、時折見せてくれるあの笑顔と。
あの真っ白な世界へと導いてくれるこの人が。
好きで。
たまらなく好きで。
未だに耳に残る奥崎の声の全て。
自分の声もオクさんの中にちゃんと残ってる?
そんな事を思っていると急に目の前にいる奥崎が噴出して笑った。
「な、なんかした?」
「なんかしたって……こっちの台詞だ。そんなにじっと見つめられたら穴開く」
「ごめん……」
自分の失態に気付いてサトルが咄嗟に奥崎から視線を反らした。いつの間にか見つめてしまっていた。さっきも勝手に触っていた。そんな自分に失敗したと何度も心のうちで繰り返す。
それでも体の熱は冷めない。ずっと、あのライブと同じ高揚感に包まれている。全ての世界を遮断して、漆黒の闇へと切り裂くように叫び続ける。独特な、許された世界。奥崎、レン、ヒサシの音が己の鼓動と重なって。
高まっていく、死にたがっていた心臓の音すら武器にして。
――最後の声が消えるまで、あんたといたい。
「……オクさん、またライブで歌いたい。俺はもう後悔したくないよ」
「させる気はさらさらねえな。引っ張って連れて行くのが俺の仕事だ。……そう約束したからな」
静かに笑う大人びた奥崎の表情にサトルは思わず見惚れた。
「どうした」
「ううん。オクさんだいぶ身長伸びたよな……ちょっと悔しい、かも」
「お前だって伸びたっつうの。俺だけじゃねえ」
「……そう、かな」
「去年に比べたら顔変わったしな、お前」
そう静かに述べて、またビールを一口飲む。
奥崎の高い喉仏が動く。
「キス、するか」
ぼそりと呟く奥崎の声。
サトルの動きを止めるには充分の言葉。
戸惑いながらも顔を赤らめて目が泳ぐサトルの様。
奥崎が珍しくも口を開けて笑った。
「……今日はこのまま俺の部屋に来いよ。キョウイチにはもう言ってあるから」
「あ、うん。……でもいいのかな」
「周囲の連中もそれぞれ事情っつうのがあるんだよ。俺たちが巻き込まれる理由はねえ」
淡々と冷たく己の意見を述べる奥崎。サトルは困ったように誤魔化し笑みを浮かべるも小さく頷いて奥崎の意見に合わせた。
「お前は黙って俺とライブの事だけ考えてろ。じゃねえとまた声出なくなっちまうかもしれねえぞ」
「……もう、大丈夫だよ」
大袈裟だな、と苦笑するもサトルの脳裏にこれから戻る場所でのやらなきゃいけない事が過ぎる。
「もうお前に何も失わせねえよ」
そんな一言。
サトルは思わず泣きそうになって。
ゆっくりと下を向いた。
「また神崎にごちゃごちゃ言われるのも御免だしな」
皮肉な言い回しの奥崎。
手にあったビールはすでに空。
乾いた缶の音がテーブルとぶつかる。
サトルは小さく笑って、ゆっくりとまた奥崎の表情を見つめた。
結局その晩は誰もいないホールのソファで過ごした。
寝息を立てる奥崎の横顔。
それからいつの間にか肌に馴染んでいた感触。
サトルは目を閉じる。
脳裏に未だ鮮明に甦る由井の瞳。
これから起こる想像。
眉間に皺が寄った。
「……ん」
小さく唸る奥崎の声に横になっていた体を少し起こして、サトルが奥崎の顔を見下ろした。
静かに眠る奥崎の表情。
どこか穏やかに見える。
あの事件からようやく迎えられた今日という日。
もう来ないとさえ思っていたあの瞬間。
歌を、また歌えた。
いつだって。――いつだって、自分の心は一番自分が見えてなかった、そう痛感しながらサトルは奥崎の前髪を後方へと指で梳く。出会った頃より随分大人びたように見えるその首筋を打つ動脈の流れをただ見詰めた。
「ありがと、オクさん」
涙声でサトルが奥崎の胸元へと顔を埋めた。
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