第三十五話:同性の先輩

 日は流れ、いよいよ明日には校外学習に出発する。今日はその前準備として、引率を務める先輩、ガナッシュとの顔合わせがあるのだ。

 話には聞いていた同性の先輩に、イオは期待を募らせる。

 イオが教室に入ると、既にシェスカ以外のクラスメイト三人の姿があった。


「おはよう!」

「あら、イオ。おはよう」

「おはようございますー」

「……おはよう」


 三者三様に挨拶が帰ってくる。イオは荷物を席に置いてみんなのもとへ。


「いよいよ明日から校外学習だね!」

「……楽しみで眠れなかった」

「イザベラさんってば、居眠りしちゃダメですよー」

「……大丈夫、頑張る」


 口ではそう言っているが、イザベラは普段の二割増しくらい眠そうな表情だ。とはいえ校外学習が楽しみなのはイオも同じ。全員が明日から始まる校外学習に期待を寄せている。


「ところで、シェスカさんは?」


 イオが教室を見回しても、シェスカの姿がなかった。彼女はこのメンバーではいつも朝早くから来ているため、姿がないのは珍しい。


「……シェスカなら、職員室」

「ガナッシュ先輩を連れてくるみたいですよー」


 すると丁度そのタイミングで、ガラリと音を立てて教室の戸が開け放たれた。


「や、みんな久しぶり。元気そうだな」


 気さくに手を挙げ、その人物は教室の中に入ってくる。癖の強い焦げ茶の髪を短く切り揃えた背の高い青年だ。彼は教室を見回し、「おっ?」と目にとめたイオのもとへ近づいてくる。


「ひょっとして君がイオくんかな?」

「は、はい。僕がイオです」

「初めましてだね。俺がガナッシュ。よろしく」


 ニッコリと温かみを感じる笑顔だった。彼こそがこの魔法科のもう一人の男子生徒、ガナッシュだ。


「いやー、君のことは手紙で読んだよ。もう魔法が使えるんだって? しかも俺と同じ地属性の精霊と相性が良いとか」

「は、はい。そうです」


 ガナッシュはイオの肩を優しく叩き、「そんなにかしこまらなくて良いよ。近所のお兄ちゃんみたいなものだと思ってくれ」と朗らかに笑った。


「ここは女の子ばかりで肩身が狭いだろ? 俺も男一人が長かったから、男の後輩が出来て嬉しいよ。あっ、そうだ! 良かったらまた後で君の魔法を見せてくれよ。俺も君くらいの年頃は精霊との交信にあくせくしてたからさぁ」

「ガナッシュ先輩」


 流れる水のように饒舌なガナッシュを諫めるように、遅れて教室に入ってきたシェスカが声をかけた。彼女はイオを後ろから抱きすくめ、ガナッシュから引き離す。


「あんまりイオ君を困らせないであげてね?」

「こ、困らせてはいないよ。ほら、男同士仲良くしたいと思ってさ」


 「なぁ? そうだよなぁ?」と言いたげな弱気な目をイオへと向けるガナッシュ。イオはおかしくて小さく噴き出してしまった。困ったようにガナッシュは頭を掻き、みんなの方へ向き直る。


「とまぁ、みんな久しぶり。話には聞いていると思うけれど、明日から始まる校外学習は俺とアンリエッタ先生が引率する。俺もまだ学生だけど、この中だと一番年上だ。きちんと俺の指示も聞いてくれよな」


 ガナッシュの言葉に、イオ達は「はーい」と声を揃えて返事する。

 早速、フレデリカがガナッシュに半ば抱きつくようにして近づいた。


「ガナッシュお兄様、実地研修はどうだったのですか?」


 背の低いフレデリカはガナッシュを見上げる。土産話を期待するその姿はまるで本当の兄妹のようだ。フレデリカも、それだけガナッシュのことを好いているのだろう。


「お、じゃあ早速話してやろう。みんなも座りなよ。この間は鬼の討伐に実際に参加したんだ――」

ガナッシュを囲うようにして、クラス一同は椅子を並べて座る。そうして彼の苦労話や体験談が始まった。

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