第一話:かくれんぼ
イオは息を殺し、納屋の奥に身を隠していた。
微かに開いた戸の向こうから声がする。じっと体を硬くし、身じろぎすらしない。でなければ鬼に見つかってしまう。
だがイオの努力も虚しく、僅かに軋む音を立てて戸が開け放たれた。そして鬼は大きく口を開け、
「イオ、みーつけた!」
最後の一人であった隠れ人の発見を宣言した。
「あーあ、見つかっちゃったかぁ。見つからない自信はあったんだけどな」
「でも、イオが最後の一人だぜ?」
「みんなで村中を探し回ってようやく見つけられたんだもんねー」
かくれんぼの決着がついたようだ。途中で見つかった人は探し出す鬼に加わるというルールで行われているこの遊びは、近ごろ村の子供達の流行りだった。
「次は誰が鬼役する?」
「なら次は僕が……」
『それはダメ!』
次の鬼を名乗り出たイオだが、その意見は満場一致で否定されてしまう。
「だってイオが鬼役したら、すぐにみんな見つかって終わっちゃうもん。つまんなーい」
「イオ、なんであんなにみんなが隠れているところが分かるんだよ」
「なら今度は俺が鬼なー? 百まで数えるからみんな隠れろー!」
次の鬼もすぐに決まり、子供達は散り散りに走り去っていく。少し肩を落としながら、イオもまた次の隠れ場所を探し始めた。
いつもイオはかくれんぼでは鬼役をやらせて貰えない。すぐに他の人の隠れ場所が分かってしまう。というのも、
「……だって、みんなが教えてくれちゃうんだもんなぁ」
他の子供達から離れると、イオの周囲にぼんやりと光る球体が集まってきた。彼らの大きさはまちまちで、指の先ほどのものからイオの頭と変わらない程度に大きな光もある。
イオには物心ついた頃から彼らが見えているが、どうも他の人には見えていないらしい。いつもふわふわと漂う彼らが、他の子が隠れている場所を教えてくれるのだ。
幼い頃、イオは自分の父親に彼らが一体何なのか尋ねたことがある。唯一、イオの父にも彼らは見えていた。
父は彼らのことを『精霊』と呼んでいたので、イオも彼らのことをそう呼んでいる。それ以上詳しいことは尋ねても教えては貰えなかった。
イオが十歳になったら教えると約束してくれていたのだが、その約束は果たされることはなかった。今から五年前、イオがまだ五歳のときに流行病で亡くなってしまったのだ。
母はイオを生んだ時に命を落としているため、イオは天涯孤独の身となってしまった。
しかしイオは独りぼっちにはならなかった。イオは彼ら精霊を友達だと思っている。言葉を話せるわけではないが、彼らが何を伝えたいのか何となくイオには分かるのだ。気がつけばいつも側に居る彼らは、イオにとって大切な存在になっている。
「さてと、次はどこに隠れようかなぁ」
村の外れにある納屋はもう使ったので、今度はあえて村の中心辺りに隠れてみようか、などと考えていると。
「……え?」
村の入り口に大勢の人がやってきている。精霊たちがそう伝えてきた。
「どんな人?」
イオが問いかけると、彼らはふるふると揺れながら明滅する。何となく、沢山の人がいるよ、とだけ伝えてくれている気がする。そして彼らはイオの元を離れ、どこかへと消えていってしまった。
彼らとの意思疎通は意外と難しく、イオも詳細を十全に理解できる訳ではないのだ。何より、彼らはどこか気まぐれな節がある。
「よく分からないけど、とりあえず見に行ってみよう」
かくれんぼの最中ではあるが好奇心を抑えきれず、イオは村の入り口へと足を向けた。
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