第4話

 真上から眺める遊園地の情景は、とてもきれいだった。大観覧車が一つずつ、ゆっくりと灯りをともし始めた。ジェットコースターの轟音と子供たちの歓声が、すぐ真下を通り過ぎていく。

「きれいね」

 女の人が言った。僕も頷いた。

「ずっと、このままならいいのにね」

 ずっとこのまま飛んでいられたら、いいのにね・・・。僕も一瞬だけ、本当に本当に心からそう思った。お母さんが見つからなくてもいい。ずっとずっとこのままで、どこまでも飛んでいたい。この女性と二人きりで・・・。

「あ!」

 不意に女の人が叫んだ。シャボン玉は弾けてしまった。女の人の方に、何かが起こったんだ。僕は不安になって、女の人の方を見た。女の人はじっと遊園地の出入り口の方を見つめている。僕もそちらを眺めた。いつの間にか、遊園地の出入り口に車が止まっていた。すらりと背の高い男の人が車から降りて、こちらに向かって真っすぐに歩いてくる。

「迎えが来たのよ」

 女の人が僕の方を見て、呟くようにそう言った。男の人が、僕らに向かって手を振った。女の人がそれに応える。ああ、と、僕は気づいた。きっと、この女性の恋人なんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る