第2話

 僕のシャボンも、夕日に映えてとてもきれいだった。ふわりふわり、シャボン玉はいくつもいくつも重なり合って、西の空へと飛んでいく。高く高く昇っていく。どこまで昇っていくだろう。僕は目で追いかけて、シャボン玉を見送った。弾けるな、壊れるな、シャボン玉。生き延びろよ。でも、いつか、パチンと弾けて消えてしまう。

 僕は、いくつもいくつもシャボン玉を作った。そのうちに、体がふんわりとしてきて、シャボン玉の中にいるような気持ちになった。僕はシャボン玉の中に入って、高く高く昇っていく。僕と女の人が座っているベンチが小さく見えた。僕がびっくりしたとたん、シャボンはパチンと弾けて、僕はベンチに帰ってきた。心臓がドキドキした。こんな経験をしたのははじめてだった。隣の女の人の方を見た。僕の方を見て微かに笑う。この女性は知っているのだろうか? このシャボン玉のことを・・・。

「これは夢なの。現実を思い出すから消えてしまうのよ」

 その女性が小さい声で呟いたように思った。僕はもう一度シャボン玉を吹いた。大きくなれ、シャボン。僕が入れるくらいに・・・。シャボン玉がストローから離れる。僕の体もふわりと浮かんだ。高く高くシャボン玉は昇っていく。風に流されてゆらゆらしながら、僕は漂った。すごい、と、僕は思った。観覧車より、ジェットコースターよりずっとすごい乗り物だ。もう地上の人間たちが、あんなに小さくなってしまった。もしかして、もう帰れないんじゃないだろうか? そう僕が思ったとき、シャボン玉はパチンと弾けた。僕の体もベンチに帰ってきた。

 隣で女の人がくすくす笑っている。やっぱり、この女性は知っているんだ。

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