シャボン玉

ある☆ふぁるど

第1話

 夕暮れの遊園地で、一人ベンチに腰掛けて、シャボン玉を吹いている女の人に出会った。明るい春色のワンピースを着たきれいな人だったけど、その姿はとても淋しそうに見えた。夕暮れの空に、シャボン玉はふわりと飛んでいき、やがて、パチンと弾ける。繰り返し繰り返し、女の人がシャボン玉を吹くたびに、そこには小さな世界が生まれた。キラキラキラキラ、夕暮れの光がシャボンの中に閉じ込められて、虹色に輝くのだ。その女性は泣いていた。泣きながら、シャボン玉を吹いているのだ。

 僕はその時、迷子だった。両親と離れ離れになって、一人、遊園地の中をさまよっていた。怖くて、不安だった。とり残されたような気持だった。僕のほかに、ここには誰もいない。周りの人間は、マネキン人形のように見えた。誰もかれも僕には気づかず、あるいは無関心に通り過ぎていく。もしかして、僕が大声をあげて泣いていたら、誰かが僕に声をかけてくれたのかもしれない。でも、そんな子供みたいな真似は嫌だった。まもなく僕は9歳になるのだから、もう、子供じゃないと思っていた。

 女の人がやがて僕に気づいた。僕はその女性をじっと見つめすぎていたらしい。

「どうしたの? 一人?」

 僕は慌てて逃げようかと思った。でも、できなかった。その女性だけは、マネキンたちのなかで、たった一人の人間だと思ったからだ。僕は頷いた。

「あげるわ」

 女の人が左手を僕に向かって差し出した。その中に小さくシャボンの液とストローがあった。

「ここで待っていれば、きっと見つかるわ」

 僕は何も言わないのに、この女性は何でも知っているのだ。僕はずいぶんほっとして、女の人の隣に座って、シャボン玉を吹いた。

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