あなたの部屋の隅っこと私の寿命交換しませんか

白夢 狐

第1話

 最近、会社ではとある噂が囁かれていた。なんでも、とあるフリーマーケットアプリ、フリマアプリなんて呼ばれるもので「命」と検索すると寿命を売り買いしているやつがいるそうだ。それだけなら普通の悪戯だと思うだろう、しかし、その噂はそこでは終わらなかった。

 どうやら売られているのは、寿命のバイヤーとの面会権で遊び半分で買ったやつが翌日大金持ちとなり、その翌月不自然に死亡しただとか。余命を宣告されていた末期の癌患者が面会権を買ったら、癌の進行が止まり十年ほど生きたとか眉唾物の話だった。

 とある夏の休日の真昼間に、僕は友人のAに勧められて、いや、友人がポイントが欲しいだとかなんとか言って噂のフリマアプリを強引に始めさせられた。折角なので噂を確かめるために「命」と検索してみるが、寿命の売り買いなんてものは少しも出てこない。見つかるのはカードゲームのカードくらいだった、それでも諦めずに画面をスクロールし続けていると、何やら胡散臭いものが目に入った。


『あなたの部屋の隅っこと私の命交換しませんか?』


 そんな風に書かれた神社の画像付きの出品は500円、ちょうど紹介で貰える値段と同じだった。どうせタダで手に入れた500円分だしと思い、好奇心を止められなかった僕は購入してしまった。


 次の日の朝、会社へ行く支度を整えていると玄関からチャイムの音とともに「お届けものです」と声が聞こえてきた。玄関へと行きドアを開けるといつもこの地区を担当している配達員さんの顔が見えた。受け取り印を押して荷物を受け取り彼を見送ってから配達物のやや大きな段ボールを開けてみることにした。

 段ボールを開けようとテープを剥がすと、中から女の子が飛び出てきた。


「……って、なぁ!? え、なんで!?」


 あたふたとしている僕を無視して彼女はこう告げる。


「どうも! お買い上げありがとうなのです、これから宜しくです! 旦那さん!」


 神棚に飾るような小さな社をもって話しかけてきた幼女にはなんとも見事な黒いケモミミと黒い尻尾が付いていた。


「お買い上げって……もしかして昨日の?」


「そうなのです! あなたが昨日お買い上げしちゃったのが私なのです!」


「返品とかって……」


「無理なのです!」


 元気に返してくる幼女、長髪の黒髪にケモミミと尻尾、中学1.2年生くらいに見える身長はどう考えても事案である。誰かに見つかったら確実に通報されて即ムショ行きである。


「あ、安心してくださいです。 勿論というか何というか、私はあなたにしか見えないのです!」


 そんなことを言っている幼女を尻目に、取り敢えず僕は会社に休みの連絡を入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あなたの部屋の隅っこと私の寿命交換しませんか 白夢 狐 @Sirayume

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る