腐女子櫻子ちゃんの目撃談
それは、柔らかなおひさまの光の気持ちいい、秋の午後のことでした。
わたしは、いつもの日課で家の周りをぐるりと散歩していました。
静かな住宅地の細い私道を、家々の庭を彩る華やかな緑なんて眺めながら、うふふ、しばらく歩いたし、そろそろ自宅に戻ろうかしら、そう思って帰途についていたときです。
わたしの少し前の方に、ふたりの男子学生が仲良さそうに話しながら歩いていました。
中学生か高校生かは判断できませんでしたが、制服にお揃いの学生かばんを持っていたので、わたしと同じように帰宅途中であろうと思いました。
その後ろ姿を眺めるに、ひとりは背が高く、がっしりとした体型で、もうひとりは少し小柄で、大人しそうな印象を受けました。
わたしはそもそもがこんな性癖なものですから、その彼らの爽やかな後ろ姿を眺めながら、彼らの関係性は一体どんなものなのかと、ごく自然にいつもの妄想の世界に旅立とうとしていました。
そんなわたしを、彼らは一気に現実の世界に引き戻したのです。
彼らはある一軒の家の前で立ち止まりました。
どうやら小柄な彼の自宅のようです。
ああ、もうお別れなのか、バイバイしてまた明日なのね。
もう少し後をつけてみようかと画策していたわたしはがっかりしながらふたりを見ていました。
いえ、彼らがわたしの進行方向にいるものだから、どうしても視界に入ってしまうのです。
これはもう致し方ないのです。
そうしてわたしは、見てしまったのですよ。
門扉の前で、ガッシリノッポくんが、小柄くんの頭を愛おしそうにぽんぽんと右手で撫でているところを!!
頭ぽんぽんですよ!!
わかる!?
女子の憧れ頭ぽんぽん!!
あの、イケメンにやられたら一瞬で心奪われてしまうという幻の秘技、頭ぽんぽんですよ!!
わたしは一瞬、これは一体なにを見せつけられているのだろう、と驚きました。
え、男の子同士って普通に頭ぽんぽんするの? そうなの? そういうものなの? わたしの妄想してきた世界は実は実在している? それともわたしとうとう妄想通り越して白昼夢を見てるの?
若干混乱そして興奮気味な頭を抱えながら敢えてゆっくり歩きつつまだ様子を見ていると、ふたりはバイバイと名残惜しそうに手を振りあって、小柄くんは門扉を通り玄関の向こう側に消えていきました。
そーしーたーらーさーぁ!!
ガッシリノッポくんが!!
小柄くんが家に入ってちゃんと玄関閉まるまでそこで立ち止まったまま優しそうな眼差しで見守ってんのよ!!
玄関閉まったのをしっかり確認してからまた歩き出したんですけどォ!!
なにあれ!!
なにあの表情!?
お姉さん眼球に特殊センサー内蔵してっからその表情までガッツリ見えたわ!!
なんなの!?
あれじゃあまるでデート終わりに彼氏が彼女の家まで送り届けたはいいけどさよならが名残惜しいんです状態じゃん!!
アオハルか!!
え、なに、ふたり……、付き合ってんの!!?
それともなにか? 今のは普通の友だち関係でも起こりうることなのか!?
周囲にピンク色の花が咲き誇るのが見えたわ!!
最近の男の子どうなってんの!!?
わたし昼下がりからこんなとこでなにを見せつけられてんだ、なんだよラブラブかよ!! 羨ましいわ!!
こちとら彼氏が絶対ソッチの気があると思って泳がせるために別れたばっかりやぞ!!
隠れて観察すんの大変でちょっと心折れかけてたところにこれはご褒美ですかありがとうございます今見たこと早速仲間に報告します!!
帰ったら早速ネーム起こそうと思います!!
新刊のネタは決まったわあー!! あーははははははははは!!
※『葉桜の君に』に登場したオリジナルキャラクター、葉太くんの元カノ櫻子さんです。
合わせて読んでもらえれば尚更楽しめるかと♡
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