ソーダみたいなキラキラしたやつ
サイドA
あ、やべ。
思ったときにはもう遅かった。
キスしたそいつの唇は、ものすごく柔らかかった。
夏休み初日だというのに俺らは二人仲良く補習があって、午前中のそれが終わってから、示し合わせてプールに向かった。
立ち入り禁止のロープ看板を跨いで、靴下脱いでズボン膝まで捲ってプールの縁に腰かけて足をつける。
プールの周りは太陽の熱で干上がっていて、そのまま座ってもズボンが濡れることはなかった。
冷えてない透明の水に脛まで浸けて、進路とか夏休みの予定とか、適当なことばっか話してた。
生温いんだけど、確実に気持ちいい。
足を揺らす度に水面が波打ってゆらゆらと模様を変える。
直射日光が暑くて、暑くねって聞こうと思って隣の顔を見たら、なんか急にすごくそいつの口が気になって、あんま深く考えることなく、気づいたら俺はそいつにキスしてた。
一瞬の間があって。
間近で見たそいつは、目ん玉零れ落ちそうなほど瞼を見開いていた。
あ、やっべ。
「お、おま」
「う……うわうわうわうわ! ごめん! まじごめん!!」
なにしてんだ俺!!
「ごめんごめんごめんまじごめん!! ちょっと暑さで頭沸いてた!!」
慌てて顔を離して精一杯の謝罪と言い訳と作り笑いを並べ立ててみるけど、頭の中ではどうした俺とか、やばい嫌われるとか、くちびるめっちゃ柔らかかったとか、あわよくばもっかいしたいとか、そんなことばっかがぐるぐる回る。
取り敢えず帰るか、とすぐにでもこの場を離れたくて、先に立ち上がって濡れた裸足のままスニーカーに足をつっこんだ。
柔らかいくちびるの感触がこびりついて離れない。
めっちゃドキドキしてんの気づかれたらヤバい。
サイドB
友達だと思っていた男からいきなりちゅーされてしまった。
ほんとに唐突で、暑さで頭沸いたって言ってたから、そうだろうよって思った。
そんな相手は学校帰りの坂道を自転車のブレーキ握りながらわりと勢いよく下っていて、自分はといえばこいつの自転車の後ろに立ってる。
後輪のネジみたいなとこに無理やり足ひっかけてっからバランスが大事。
目の前の肩に手をかけて落ちないようにしてっけど、カッターシャツ越しの肩、熱い。
あ、首んとこ汗が流れてる。
一筋、襟足のとこからゆっくり流れてくる。
触ったら、びっくりして転ぶだろうか。
危ないか、危ないな。
やめとこ。
「なー、お前汗すげえよ、日陰で休憩しよ」
ちょっと顔を近づけて、心配するふりをして顔を覗き込もうとしてみたけど、そんなん後ろから見えるはずはなかった。
でもさっきちゅーしてきたわりにはなんか、結構普通な顔してた、多分。
口、気になる。
「よっしゃ」
二人して自転車降りて、道路からちょっと脇道逸れて、すぐそこにあったちっさい商店の影に隠れて座り込んだ。
「アイス食いてえな」
「この店アイス置いてあったっけ」
「お前なんでさっきおれにちゅーした?」
「はっ!? だからごめんって、暑くて気が狂ったわ」
「……もっかいする?」
「は?」
あれ。
いやいや自分なに言ってんのかな?
一緒になって気が狂ったかな。
「いやほら、なんか」
暑いし。
補習受けるはめになったのも汗が伝い落ちてんのも、あれもこれも全部、夏が暑いのが悪いんだって。
「しねえよ!」
「しねえのかよ!」
じゃあおれのこの持って行き場のないそわそわはどうすんだ!!
※随分前に友人たちから急にお題を押し付けられてリクエストされたやつです。
「ソーダみたいなキラキラしたやつ」
「男子高校生」
「全部夏の暑さのせい」
だったかなー?
あ、ちなみに短編『キラキラサイダー』の元ネタです。
読み比べると原型とどめてないのがよく分かります。笑
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