第32話 ストレス反応



数日たって、魔術師の少女が目を覚ました。

あまり目立った傷はないものの、『星の病』だけあるので、大事を取ってもう数日入院させることにした。

状況によっては、あと一週間。そう考えている。

また、義勇軍の将校が、面会と事情聴取をしたいと申し出た。

あまり長時間に及ばないこと、ナースを同席させることを条件に、許可した。

      ____少女の主治医、フェロウズ医師の手記より。










アルベルトと、レベッカが、病室に入室してきた。

少女____リュンヌは彼らの来訪を知っていたものの、びくりと肩を震わせた。

「あはは、刺激しちゃってごめんね」

レベッカが素早く前に出て彼女の手を握る。

ひんやり、というか、温度を感じられない冷たさだった。

「私はレベッカ。後ろの人はアル。ちょっとだけ話が聞きたいの。いいかな?」

「・・・は、はい」

アルベルトの方をちらちら見ながら、リュンヌは頷いた。

(ベッカを連れてきて正解だった)

自分だけだったら、怖がられて話どころではないだろう。


「あなたのお名前は?」

「リュ、リュンヌ、だと思います。すみません、記憶が、ちょっと曖昧で・・・」

レベッカに握られた右手をそっと握り返しながら、リュンヌがたどたどしく答える。

「そっか。何か他に覚えていることはある?」

「覚えて、いること_______?」

リュンヌが左手を口元に持っていく。

その動作を、見落とさないとしているかのようにアルベルトが凝視する。



「わたし、は」

とても寒いところに家族で住んでいて。

「えっと、家族4人で住んでいて」

そうそう、豊かな暮らしとは言えないけれど、

「仲良く暮らしていた・・・と思い、ます」


リュンヌが、ぽつりぽつりと家族のことを語る。

リュンヌが、他に思いだせることはないかと記憶の引き出しを開けた時_____



________リュンヌの脳に、撃ち抜かれたかのような痛みが走る。



「う、うぅっ・・・」

「!」

「リュンヌさん!」

ナースが間に割り込んできて、彼女の様子を診る。


「・・・そうだ、あの日______ 

   『裁きの日』に______

  皆、焼かれて殺されて_______


  オフィーリアが、私の手を引いて_____

  氷ですべてを凍てつかせて、村を出て______


それから_________


 それから・・・

  

  それから・・・?」



「も、もういいよリュンヌちゃん!」

「あ・・・?」

気付いた時には、リュンヌの頬に冷たい涙がすぅっとこぼれていた。

「そう、そうだ・・・オフィーリア・・・ごめんね・・・」

両手で目元を押さえ、涙を流し続けるリュンヌ。

わんわんと、子供のように泣き続ける。

流石にこれ以上、話を聞くことは難しいだろう。

「我々はこれで帰りましょう」

「そうだね。・・・リュンヌちゃん、どうか気を確かに」

最後にリュンヌの冷たい身体をぎゅっと抱きしめて、レベッカは離れた。

「あとはお願いします」

ナースが既に主治医を呼んでくれていたようで、主治医が入ってきてリュンヌの傍に寄っていった。

2人は僅かに一礼して、病室を後にした。




「どう思う?」

病院の敷地内を出て、アルベルトが問う。

「どうって言われても・・・、私には、あの子が犯人には思えないの」

「同感だ。あの不安定な魔力で、あの高度な術式を破り、証拠も残さないことなど不可能だ」

となると、あてはひとつ。

「『オフィーリア』、という子について。情報が欲しいところね」

「・・・お前もそう思うか」

「ええ。魔術師の家系は、そう残っていないからね。僅かな情報でも調べ上げていかないと」

レベッカが無線機を繋ぎ、「リー?聞こえるー?」と話しかけた。



『隊長?_____・・・どう、_____か?』

「およ?通信状況が芳しくないですなぁ」

レベッカが軽く無線機をコツ、と叩く。


「あ、ちょっと良くなったかな?」

『今、_____・・・すみません、話をできる状況ではなくて・・・』

ノイズが走っているが、辛うじてその声が聞き取れる。

「ん?今任務中?」

『はい・・・多数の負傷者が出ていて・・・____・・・治療に当たっています・・・』


『上位種に・・・遭遇しました・・・』


『指揮官殿に、許可は、______・・・いただいています・・・』




『それでは、行って参ります・・・』


そう言って、通信がぷつりと切れた。



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Unlimited 天狼牡丹 @Kanawo

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