第29話 薔薇


「・・・ということがあったんです」

マカロフとハイドの報告を受け、指揮官はにっこりと微笑んだ。

「そうかい。それはご苦労だった」

「まさか、リーになりすますなんて・・・」

指揮官の傍に控えていたリーが微笑む。

「疑われにくい、と踏んだのでしょう。それにしてもハイド、良く見抜きましたね」

「お前と何年一緒に過ごしてきたと思ってるんだ」

「ふふ。身に余る光栄ですね」

2人の間に流れる空気。

お互いを信頼し合っている親友、のようにも見えるし。

腐れ縁、のようにも見える。

「報告は聞いた。下がっていいよ」

「「「はい」」」

「あ、マカロフはちょっと残ってて」

「?・・・はい」



廊下にて。

2人の戦友は、肩を並べて歩みを進める。

「そういえば、ハイド」

「ん?」

「あれは【インフェルノ】でしたか?」

「ああ、おそらく」

「・・・成程」

彼女の笑顔が引きつった。

きっと腹の底から湧き上がる怒りを、必死でこらえているのだろう。

「お前も妄執に囚われてるな。あれから何年目だ?」

「・・・9年と10か月、24日になります」

「正確に覚えてるんだな」

「そういうあなたは?ご令嬢が殺されてから、何年経ちます?」

「お前とあまり変わらんよ。7年と89日」

「・・・私たちは、『似た者同士』とでも呼ぶべきなのでしょうね」

寂し気に微笑むリーに、そうだな、と返す。

本当に似た者同士だ。












同じように大切な人間を、【インフェルノ】に殺されているのだから。









「・・・?ハイド?聞いています?」

リーに肩を叩かれ、はっと意識を戻す。

「な、なんだ?」

「いえ、大した用ではないのですが・・・」

リーが胸ポケットから小さな小包を取り出す。

「『弔い屋』から、あなた宛てに」

「ん?あの陰気な坊ちゃんから?」

ガサガサと包みを開けると、赤い薔薇の実が入った小瓶が入っていた。

「・・・?なんだこれ」

「黒薔薇ですね。とても綺麗です」

____黒薔薇。

「手紙も同封されていますよ」

そう言われ、瓶の下に赤い封筒が収まっているのを確認する。

包みをリーに預け、手紙をペーパーナイフで開けた。



[ 麗しの復讐者どのへ

 もうすぐ仇討ちの機会が訪れます。

 お2人とも十分に御備えください。

 一筋、二筋、三筋縄ではいかない相手でしょうから。

 貴方達の骨は、私が丁重に葬って差し上げますから、どうぞ気兼ねなく闘いにお挑みください。 

                      『弔い屋』 ]




「相変わらず嫌味な奴だな」

思わず顔を顰めたハイドに、リーは笑みを返す。

「ですがようやく、ですよ。ようやく私たちは復讐を遂行できる」

リーは目を閉じ、手を合わせた。

「長かった・・・あまりにも長かった・・・」

恍惚とした表情を浮かべ、リーは胸元に手を当てた。

「あの方の思い通りに骨に飾り付けされるのはいささか不満ですが、仕方ないでしょう」

「・・・ああ、そうだな」






黒薔薇の花言葉は、いくつかある。

しかし最も知られているものを取り上げるとするならば____________






『憎しみ』だ。

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