第27話 『星の病』


「_____これは」

SOが信じらない、といった表情で少女を見つめる。

あの怯えていた少女が、政府ですら手を焼いていた古代の魔法使いを倒すとは。

「おい!無事か?!」

テオやヴィルヘルム達がSO達の元に駆け寄ってきた。

「賢者は・・・」

「始末した。そこの少女が」

SOの視線の先を見ると、光を纏った少女が、賢者の燃えカスを見下ろしていた。

「な・・・それは、本当か?」

「私が嘘を言っているように見えるか?」

SOが険しい表情でテオを見る。


「フレイ!」

ハイドやヴィルヘルムが倒れているフレイヤに近づく。

息はある、大丈夫だ。

「ヴィル!」

「はい!」

ヴィルヘルムが額の汗を拭ってから、フレイヤに回復魔法をかける。

青ざめていた彼の顔が一気に良くなる。

ほっと息を吐いた。

「良かった・・・」






ロランとユハニが少女の元に駆け寄り、声を掛けた。

「大丈夫?」

「・・・」

少女はゆっくりと振り返り、笑みを浮かべる。




___________が




彼女を纏う光がゆっくりと消えていくと_________________

















ユハニとロランの視界が赤く染まる。

それが少女のものだと理解するのに、少々、時間がかかった。

「!!」

ロランが倒れてきた少女の身体を支える。

少女の顔が苦悶に変わり、熱があるように息が荒い。

「!」

SO達がロランの元に駆け寄る。

少女は何度も何度も吐血し、目に涙を浮かべている。

「ヴィル!!」

弾かれたように顔を上げヴィルヘルムは少女の元にやって来る。

急ぎ回復魔法をかけるが、効いている感じがしない。

顔色は悪いままだ。

「マカロフを呼んでこよう!」

SOが身を翻し雨林へと消えていく。

「どうして、どうしてこんなことに・・・?」

ロランが今にも死にそうな顔で少女を眺める。

少女は息も絶え絶えで、いつ死んでもおかしくないように見えた。



「連れてきたぞ!」

SOの声に、顔を上げる。

淡い桃色の髪をボブカットにした少女が、肩で息をしながらSOと走ってきている。

「マカロフ」

ハイドがほっとしたように片手を上げる。

「ハ、ハイド君お久しぶり。それで、この子が怪我人?」

「ああ、怪我人というが病人というか_____」

「とりあえず治療してみる。〈ヒーリング〉」

マカロフの手の中の本から膨大な光が溢れ出し、少女を包む。


「これは・・・」

マカロフが顔を歪めた。

「?どうしたマカロフ?」

「これ、私1人じゃ無理かな。止血は出来ても、根本的な解決はできない」

その言葉に、全員が目を剥く。

「〈治療技師〉のマカロフに治せないものがあるのか?」

SOが問う。

「うーん、この子の身体、今まるで底の抜けた壺みたいです。与える魔力が全然効いてない。でも、師匠から伝授されたこの技なら・・・!」

マカロフが本をめくり、赤いインクで書かれた文字を指す。

「止血くらいは、できるはず・・・!」


マカロフの声と同時に光が少女を包み。

有言実行、してみせたのだった。






数時間後

帝都 義勇軍本部


「・・・あら?」

巡回を終えたリーが目を細める。

「随分早いご到着ですね。何事でしょうか?」

法定速度を大幅にオーバーした専用車が、リーのすぐ横に停まる。

中からSOが飛び出し、リーの姿を見ると動きを止める。

「リー、か」

「はい、おかえりなさいませ。お疲れさまでした。それで、どうなさいましたか?随分飛ばしてきたようですけれども」

「急患だ!」

「・・・急患ですか?」

目を丸くするリー。

「そうだ。重病人で、急いで処置をする必要がある」

「わかりました。アルさんと指揮官には私からご報告しておきます。急いで帝都病院へ」

「助かる!」

SOが再び車に飛び乗り、合図もなく発車する。

リーはすぐに身を翻し指揮官室に向かいノックした。

「どうぞ?」

「失礼致します」

リーが入室し恭しくお辞儀をすると、指揮官がふっと笑う。

「どうかしたのかい?先程、ドタバタとした音が聞こえてきたけど」

「SO隊長によると、急患がいたことにより急ぎ帝都病院に行かねばならなかった、とのことです」

「成程ね」

「失礼します!」

声と共に扉を開け放つのはアルベルト。

リーの姿を確認すると目を大きく見開いた。

「ご機嫌よう、アルさん」

「あ、ああ」

にこにこと笑みを崩さぬリーを見てぎこちない笑顔を返す。

「どうしたのアル?」

指揮官の声ではっとしたように報告をする。

「SO達からの通信が途絶えました。おそらく、無線機が壊れたのかと・・・」

「ああ、そういうことですか」

「合点がいったよ」

「?・・・どういうことだ?」

訳が分からない、という風に顔を歪めるアルベルト。

ふっと花が咲くような笑みを浮かべ、リーが答える。

「先程、SO隊長一行が本部に戻って参りました。しかし急患がいるらしく、すぐに引き返していかれましたよ」

「無線機が壊れたから、わざわざこっちに寄ったんだろうね」

「あ、なるほど・・・」

アルベルトが合点してように頷いた。

それを見届けた後、リーが手をパン、と合わせた。

「そうだ。皆さん、お茶でも飲みませんか?指揮官もアルさんも、昨日からずっと部屋に籠りっきりで仕事をしていたではありませんか。私がお茶、淹れますから、少しはゆっくりしてください」

「・・・そうだね。ありがとうリー」

「助かる」

疲労の色がどちらの表情を見ても窺える。

余程無理をして仕事をしていたのだろう。

「いえ。これが私にできることですから」

リーはティーポットを手に取ってテキパキと紅茶を淹れ始める。

彼女の淹れた紅茶で、談笑する3人の間に、平穏な空気が流れた。




          ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦



帝都病院の一室にて。

少女の傍らに控えるマカロフの頭を、バインダーがはたいた。

「あたっ」

振り返ると、眼鏡をかけた長身の女性が立っていた。

「お師匠様」

「久しぶり。義勇軍で随分と活躍しているようだね」

「・・・ありがとうございます」

女性はマカロフの隣に腰かける。

「他の人たちには、私の部下が説明してる。この子の状態を」

「・・・どんな状態なんですか?」

一拍おいて、女性が答える。



「『星の病』さ」


「・・・何ですか、それは?」

「知らない?マカロフも、一人前だと思ってたがまだまだだな」

女性はふぅ、とわざとらしい溜息をつくと、少女の手を握る。

「患者は、ある一定の条件を満たしたとき、光に包まれるんだよ」

「!」

賢者の森の、少女の輝きはSOから聞いていた。

さらに、と女性は被せる。


「光に包まれている状態のときは、患者は圧倒的な力を有する。魔術師だけでなく、普通の人間にも稀に見られることがあるんだよ。喧嘩に弱い男が、光を纏った瞬間ゴロツキを全員倒してしまった、とかね」


「・・・」

「しかし、何事にも代償はつきものだ」

 


「患者はその体内で、魔力を生成する。光に包まれている間、その光が魔力を吸い上げて威力を高めるんだ。だが、その光は患者が満足するまで魔力を吸い続ける。吸い続けて吸い続けて強くなれるんだ。もし、生成できる魔力以上のことを望み、してしまったら・・・」





「患者は、本当の意味で命を削ることになる」

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