第24話 古代の魔法

雨に打たれながら泥濘と化した道を走り続ける。

道がかなり入り組んでいて、進めばさらに分岐した道が現れる。

「また死体か」

唸るように声を出し、避けるハイド。

彼の足元には、脳髄に穴を空けられ絶命した人間が横たわっていた。

「無線機、使えるか」

そう問われ、フレイヤは腰のホルダーから無線機を取り出す。

本部に接続されていたそれに声を掛けた。

「聞こえますか?フレイヤです」

『フレイヤか?』

アルベルトの声がする。

「はい、あの、呪われた村から数キロ離れた森に_____」

『悪いことは言わない、そこから離れろ!』

「え?」

首をひねるフレイヤから無線機を奪い、ハイドは話しかける。

「どういうことですか、アルベルト隊長」

『そちらには、__________、いくら、なんでも、分が悪_____』

無線機からノイズ音しか聞こえなくなった。




「そう、あまりにもお前らには分が悪い」


声が背後から聞こえた。




「フレイ!」

金属音と爆発音。

振り返ると、ハイドが何者かとフレイヤの間に入って攻撃を受け止めていた。

「ハハッ!美しき友情だな!」

「先輩!」

咆哮を上げながら何者かを弾き飛ばすハイド。

弾き飛ばされた主は身軽に木の上に着地する。

「久しぶりに見たぜ、甘っちょろい顔をした戦士をよ!」

その姿は褐色の肌をした女性だった。

顔を侮蔑に歪め、彼らを見下していた。

「村人を殺したのは、君か?」

「さぁどうかな。俺かもしれないし違うかもしれない。答えるつもりはさらさらねぇけどな」

女は大きな鈍器を片手に残忍な笑みを浮かべる。

ハイドは双槍を構えその視線を受け止める。

「その魔力、副長だな?」

「それがどうした?」

軽く返すと、女は嬉しそうに鈍器を振り回す。

「お前を殺せば、【インフェルノ】に加えてもらえるかもしれねぇな」

「そんなこと・・・!」

させない、と言う前に。

女が冷気を帯びた視線を送ってくる。

「お前は引っ込んでろ、羽虫が」

「・・・!!」

「大体、俺とコイツの戦いにお前が入ってこれる訳ないだろうが」

ぐ、と返す言葉も出ない。

黙って俯くと、「顔を上げろ」と鋭い声を掛けられた。

顔を上げハイドを見ると、不敵な笑みを浮かべていた。

ハイドは女を睨め上げる。

「今の発言、撤回しろ」

「・・・ぁん?」

「フレイは弱くない。侮辱するな」

その言葉に、心底おかしいというように嗤う。

女はひとしきり嗤った後、鈍器を構えた。

「なら示してみろ、羽虫ごときが!」



「_________血の気が多い。これだから小娘は」



少女のような無邪気さの、老人の声がする。

「・・・ああん?てめぇが指図してきたんじゃねぇかこのクソガキが!」

女は怒りに満ちた顔でフレイヤの後ろの方に鈍器を向ける。

2人が振り返ると、フードを被った小柄な少女が立っていた。

「お前は_____」

「 ≪Sheep And Dogs≫ 」

その声に呼応し、木々の枝が伸びていく。

「しまった、フレイ!」

ハイドが槍を右手にフレイを脇に抱えて躱す。

枝が伸びて彼らのいた場所に籠を作り、それがまだ伸びて周囲を囲った。

「・・・檻か」

冷たい息を吐く。

「何者だ?こんな原始的な魔法を使うなんて」

「古き血を引く最後の射手。流石に初代のような、「願うだけで自然に干渉する」力は失ってしまったがな」

少女はフードを外し、美しい慧眼の姿を見せた。

ハイドは鼻で軽く笑うと、フレイを下ろし槍を弄ぶ。

「その声に似つかわしくない姿だな」

「これは初代のクローンだ。私の身体はとっくに捨てた」

少女は杖をくるくると回し、女を見上げる。

「小娘よ。さっさとこの異物を排除してはくれないか。お前がこの森で休みたいと言ったから寝床を貸してやったが、腹が減ったから人間を持って来いだの、挙句の果てに人間の死体でこの森を穢すとは。初代に顔向けできん」

「はっ、顔向けしなきゃいいじゃねぇか。それならよ」

「・・・」

少女の後ろから殺気と思しき影が現れる。

鋭き眼光。一睨みですべてを制圧してしまうような。

「喰らわれたいのか、小娘」

「・・・ち」

女は木から飛び降りると、鈍器を構えた。

「こいつらを殺せばチャラになるのか?」

「・・・大目に見てやろう」

「わかったよ」




女が飛びかかって来たと同時に、ハイドの雷神の加護を帯びた双槍が唸った。

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