第23話 呪われた村


第4部隊


「よぉ、お前ら。よく眠れたか?」

レトルトカレーを頬張る遊撃隊に声を掛けたのはハイドだ。

自身もレトルトカレーを手にしている。

「はい!おはようございます。先輩こそ、よく眠れましたか?」

「そりゃあな。寝ないと体力は回復できねぇし」

フレイヤとヴィルヘルムの間に腰かけると、レトルトカレーを咀嚼し始める。

暫く無言で朝食を掻き込んでいたところ。

『聞こえるか、ハイド』

太い男の声が聞こえた。

ハイドは容器を置いて無線機を取り出す。

「はい、なんでしょうか隊長?」

『朝の挨拶は省略するが、アルベルトから伝令が来ている。周辺の村の様子を確認してほしいと』

「なるほど」

『そこに遊撃隊はいるか?彼らとお前の後方の部隊で見にいってほしい』

「了解です」

そこで、無線が切れる。




数時間後。

遊撃隊は到着した村の位置座標を確認する。

「ここで合ってますよね」

フレイヤが首をひねる。

「ああ、送られたのはこの地点だ」

機械の馬から飛び降りたハイドは、デバイスで地図を表示する。

周りの景色を眺めて、ヴィルヘルムは呟いた。

「ここには何もないな」

きっちりと舗装された街道。

馬車がつくった轍。

生活している様子が見られる家。

だが、誰も見かけない。

「朝に誰も家から動かないっていうのはおかしいな」

フレイヤが近くの家の玄関まで歩く。

ノックを数回し、「失礼します」と言ってから扉を開く。

「・・・誰もいない」

テーブルにはボルシチ。キッチンには作りかけのジャム。

椅子はテーブルからはみ出しているし、服は椅子にかけてある。

人々の痕跡はある。

「まるで舞台の装置だな」

いつの間にか隣に立っていたヴィルヘルムが言う。

「先輩、この地区は懺滅隊の襲撃に遭っていますか?」

「いや、ギリギリ範囲を外れている。妙だな」

そう言った刹那、ノイズが走る。

『着いたか』

朝の声、第4部隊の隊長の声だ。

「はい」

『どうだ、村の様子は』

「もぬけの殻です。生活している様子はありますが、人ひとりいません」

その返答に、数秒黙ってから。

『やはりか』

「・・・どういうことです?」

『アルベルトが言っていたのだがな』


『その村、呪われている』




甲高い声が聞こえた。

笑い声に近い。

「どこからだ?」

きょろきょろと周囲を見渡す。

「あそこじゃないですか!」

指さした先は、数キロ先の暗い雨林。

地図で軽く確認する。その雨林には洞窟もあるようだ。

「行ってみるか」

機械馬に乗り込み、駆けだすハイド。

慌てて後援部隊もついていく。


高速で飛ばせば、数キロなんてあっという間だ。

「車は置いていけ。魔力に当てられたら爆発するからな」

ハイドが降り、遊撃隊が彼の後を追う。

彷徨っているうちに、また声がした。

今度は悲鳴だ。

「こっちだな」

双槍を手に、ハイドは加速する。

(速い・・・!)

全速力でやっと背中が追える。

これが副長の実力か。

ハイドが急に左に曲がった。

雨風が視界に入って鬱陶しい。

掻き分けるように左へ曲がると。


「うっ・・・・!?」

堪らず鼻と口を覆う。

目の前にあるのは血まみれの遺体。

何層にも人が折り重なって死んでいる。

「ヴィル!」

「あ、ああ・・・」

ハイドに呼ばれ弾かれたように顔を上げると、慌てて聖書を取り出す。

辛うじてまだ息がある人間を探し、治療を施す。

「ヴィルとアンの部隊、任せたぞ!フレイ、来い!」

「はい!」

ハイドの背中を必死で追いかけるフレイヤ。

それを後目で見たヴィルヘルムは、ひとつ疑問を口にする。


「・・・血の匂いが寸前までわからないなんてことあるのか?」


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