第22話 誓い


「子供を殺めるのは少々、堪えるな」

SOが呟いた一言は、遊撃隊には聞こえなかった。

だが、なんとなく戦いたくはないのだというのはわかった。


SOは銃弾を素早く躱し、2人の頭部めがけて腰からナイフを投げる。

2人は甲高い奇声をあげながら避ける。

避けた先にユハニがエッジを投げる。

「!!」

それに気づいた少年が少女を突き飛ばす。

少年の顔のフレームが大きく損傷する。

「兄さん!」

女の子が悲鳴を上げる。

「なんてことない」

少年が立ち上がり、ユハニを睨みつける。

「よくも傷をつけてくれたな。妹だったら承知しなかったぞ」

「へぇ、普通に喋れるじゃねぇか」

「そんなことはどうでもいい!」

少年が吼え、空気が揺れる。

少年がマシンガンを構え、ユハニに向ける。

「殺す、殺す殺す殺す殺す!」

気が狂ったように乱射する。

ユハニに躱せる速度はない。

目をつぶった瞬間、銃弾の雨の音が響く。

不思議なことに銃弾を受けた痛みはない。

恐る恐る目を開けると、目の前にはロランがいた。

ロランがハンドガンで応戦し、すべて銃弾を撃ち落としている。

「な、そんな芸当が・・・」

「・・・」

銃弾同士が、寸分の狂いなく。

ユハニに当たりそうなものだけ、撃ち落としていく。

「よくやった遊撃隊!」

SOが死角から少年の頭に剣を穿つ。

「兄さん!!」

少女の悲鳴と鈍い音が響き。

「ルヴィア!」

少年の前に立ちはだかった少女の頭部に、深々と、剣が突き刺さった。



「兄、さ・・・」

少女は目に薄い涙を浮かべる。

「おのれ、よくも!」

SOにマシンガンを突き付ける。

それがしかし、仇となった。

「ユハニ!」

遊撃隊に背中を見せる形をなってしまったのだ。

ユハニの投じたエッジが、少年の頭部に刺さる。

「甘い!」

マシンガンをユハニに向けようとした刹那。

少年が崩れ落ちる。

「・・・あ、な、なんだ、これ。か、身体が・・・」

少年の身体に紫の、血管のような筋が浮かび上がる。

少年は周囲をのたうち回る。

「これは・・・」

SOが驚く。

「ユハニ、これは毒?」

「ああ。毒を作るのは、療養中でもできるからな」

ユハニは得意そうに胸を逸らす。


「嘘だ、こんな・・・。僕たちが、負けるわけ・・・」

「さっき似たようなことを聞いたな」

SOが少年たちに歩み寄る。

少年は少女を庇うように覆いかぶさっていた。

それを慈悲深い目で見つめる。

「君たちに問いたい」

「・・・」

「人を殺めて、楽しかったか」

「!」

少年は顔を歪めながら、弱弱しく首を振る。

「ほ、本当、は・・・悲しかった。あの方の術に縛られてる間は、楽しかった、けど、戦いが終わって、人が死んだ後を見ると、とても、かなしかった」

そう言う声も弱弱しい。

「・・・そうか」

SOは剣を握りしめる。

「どんな者、どんな理由だろうと、人を殺めるのは悪だ」

「・・・」

「せめて君たちが罰を受けた後、往くべき場所に往けることを願っている」

SOは剣を振り上げる。

「さらばだ、悲しき操り人形」



2人の上位種の動きが完全に停止すると、SOは振り返る。

「ご苦労だった。格段に力をつけたな、遊撃隊」

「ありがとうございます!」

「さて、本部に戻るぞ」

SOは残骸を拾い集める処理班に指示を出した後、専用車に乗り込んだ。



SOは専用車の後方に移動する。

少女は眠っていた。

近くに腰かけ、頬にかかった髪を払う。

朝、バナナトーストを食べたきり目を覚ます様子がない。

(魔術師の魔力源である刻印が焼き切れている)

ルークほどではないが、魔術師に対する知識はある。

SOは眠る少女の手を取って、その手の甲にある赤い紋様を見つめる。

ほとんど消えていて、かすれた紋様の放つ光も弱弱しい。

「・・・お疲れ様、です」

振り返ると、ロランが立っていた。

「少年か」

「・・・その子、」

「ああ、目を中々覚まさない。余程消耗しているらしいな」

睡眠をとって魔力を回復しているのだろう。

「気になるのか?」

そう問うと、ロランは頷いた。

「・・・なんだか、似ている気がして」

「・・・そうか」

深く詮索するのは良そう。

立ち上がり、ロランの肩に手を置く。

「少し彼女を見ていてくれ。私は報告をしてくるから」

「・・・はい」


ロランは、SOが立ち去った後、躊躇いがちに少女の手を取った。

小さくて頼りない手。とても冷たくて体温が感じられない。

「・・・」

少女は一体どんな人生を歩んできたのだろうか。

自分に似ている気がした、というのは嘘ではない。

だが、彼女と自分の境遇には大きな違いがあるようにも思えた。

(それでも)

彼女のことを考えてしまう。

どうして、と答えることはできないが。

「・・・必ず、守る」



そう吐いた言葉は虚言などではなく。

誰にも聞こえぬ、ただ一人の為の誓いだった。

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