第21話 始まりの音

朝が来た。

日が昇り、この世界を照らしている。



第3部隊


「そろそろポイントに到着します!」

先頭を担う隊員の声に、SOは頷いた。

「了解だ。上位種を発見次第すぐに呼べ」

「はい!」

その歩みが一歩、一歩と上位種に迫るにつれ、緊張感が高まっていく。

ハンドガンに銃弾を詰め込むロランを後目で見つつ、ユハニもエッジの刃を磨く。

数十分後、叫び声のような声が上がる。

「上位種です!」

「ああ」

SOは立ち上がると、一瞬で姿を消す。

専用車には微かな煙が残っただけだった。

運転していた隊員は驚きつつ、スピードを上げる。

「遊撃隊の方、急ぎますから掴まっていてくださいね!」

「了解!」



とある森を抜けると、背筋が凍てつくような冷気が彼らを襲った。

「これは・・・上位種の技か何かか?」

「違う。これは技じゃない」

今まで沈黙を貫いていたロランが首を振る。

「上位種の殺気だよ」




SOはすばしっこく周囲を動き回っていた。

SOの着地した地点には爪が出現し、引き裂こうとするが。

「冬の重奏」

鞭のようにしなる剣がそれを弾き飛ばす。


「嗚呼、いい、ねぇ」



女の声がした。

SOは視線だけ動かす。

「何者だ」

「私は上位種。名前はハイランダー」

そう言ってこちらに姿を見せた。

「!」

それを見たユハニは恐怖で顔を歪める。

女の頸は不自然に曲がっていて、口もあり得ないぐらい裂けている。

「おい、そこの。名を聞いたから、には、名乗れ」

不機嫌な声音だ。

「・・・名前などない。ただの第3部隊隊長を担う者だ」

その言葉を聞いて、ハイランダーは口角をさらに吊り上げた。

「ああ、滑稽、だ。自分から殺されに来るとは」

「と、いうと?」

女は腕を交差させると、何事が呪文を唱え始めた。

____刹那、雷鳴がとどろき、何か巨大なモノが現れた。




「これは・・・」

巨大なオートマタだ。ゆうに十数メートルはある。

「ふふふ、あははは!滑稽だぁ、滑稽だぁ!!」

女は高笑いをし、口元を手で隠す。

しかし口が裂けているため、口角が隠しきれていない。

「こいつには勝てない!どんな勇者でも、どんな歴戦の猛者であろうとも!何人も食われた、こいつに、こいつ、に!」

嗤いすぎて緑色の液体を嘔吐する女を一瞥した後、SOは剣を握りしめた。



一瞬で垂直に飛び上がる。

呆気にとられる隊員たちと遊撃隊。

ゆっくりと歩みを進める巨大なオートマタめがけて降下していく。

「無駄な、ことを!そいつの頭、固いんだ、ぞ!」

女の言葉も耳に入っていないような涼しい顔をしているSO。

巨大なオートマタはSOを見つめ、叩き潰そうと腕を振り上げる。


「ヴィオレッタ」


急な加速。

腕を振り下ろすよりも先に、剣が。

オートマタの頭部を木っ端微塵にしていた。



「は?は?はぁ?」

女は困惑した様子で落ちてきた残骸を眺める。

「嘘、嘘、嘘嘘嘘!誰、も勝てなか、ったのに!ありえ、ない!ありえ、ない!」

「だが現実だ。それを受け入れろ」

残骸と共に降りてきたSOが、剣を滑らかに動かす。

「そして消えよ」

SOの剣がしなり、女の頭を穿つ。

「あ、あ_______」

大きなひびが入り、女が崩れ落ちる。

奇妙な光景だ。

「い、いた、痛い・・・」

女の目から急速に光が消えていく。

「そ、そう、これ、が、痛み・・・」

女が苦痛と喜びに満ちた顔で絶え果てる。

SOは剣をしまうと、隊員に後始末を頼んだ。

「・・・しかし妙だな」

「どうかしました?」

ユハニ達に近づき、SOは顔を顰める。

「気配が消えない」

「気配、って・・・」



「あーあ、ばれちまったねぇ」

「ばれちゃったなぁ」



双子と思しき声に、SO達は振り返り武器を取り出して振り返る。

木の上に立つ、2人の少年少女。

その造形はそっくりで、髪の長さで性別が判断できる。

「そいつは捨て駒、要らない上位種」

「あの方に必要とされていない上位種」

「それは以前、多数の部隊を滅ぼした2人組の上位種と同じようなものか?」

SOが問うと、2人は同じような笑顔を浮かべる。

「そうそう!よくわかったね!」

「ガトリンクちゃんとセイメイくん、伸びしろがなかったんだって」

「だから捨て駒になった」

「だから要らない」

無邪気に笑う2人を睨み上げ、SOは剣の切っ先を向ける。

「君たちは上位種か?」

「そうだと言ったら、どうする?」

「捨て駒じゃない上位種だったら、どうする?」

「どんな上位種だろうと同じだ。叩き切るのみ」

SOが返すと、2人は無邪気にまた笑う。



「愚かなひと、だから殺してあげようよ」

「殺せばきっと、【インフェルノ】に選ばれる」

「始めよう、始めよう」

「殺戮の音を始めよう」


2人の目が赤色に染まり、歪んだ笑みを浮かべる。

「遊撃隊、後方支援を頼む!」

SOの鋭い声に、ユハニとロランが頷いた。

「了解です!」

「・・・了承しました」


双子の上位種はそれぞれ、マシンガンとガトリング砲を召喚する。

その銃弾が放たれる前に、3人が動き出した。

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