第19話 少女の記憶


第4部隊


「ん?」

無線のノイズを聞き取って、ハイドは無線機を取り出す。

「もしもーし。もしかしてテオ隊長ですか?」

先頭を司る隊長の名を呼ぶ。

『いや、私だ』

どうやら向こうの相手はSOらしい。

「どうしました?」

『こちらのルートで、一名の少女を保護した。至急本部に伝えてほしい』

SOの持っている無線機は旧式で、電波を放つ範囲が狭い。

ハイドの持っている無線機は新型なので、範囲を気にせず無線ができる。

「了解。でもそっちの荒野って、近くに村とかなかったですよね?」

『そこだ』

「へ?」

SOは硬い声のまま、続きを口にする。

「彼女は魔術師の杖を持っている。おそらく、その血を引いた血族だ」




かつて、この世界には13血族と呼ばれた魔術師がいた。

魔術は魔法の模倣品。

しかし、いにしえの魔法を知りえるのは彼らだけであり、魔術を発展させていったのも事実だった。

それをよく思わないのは、貴族。当時の議員だ。

「13血族の撲滅」を命じ、すべての魔術師が散っていった。

無論、貴族側の人間の屍も積み重なっていくが、彼らはそれに頓着しない。

そして、十余年の時を経て、すべての弾圧に成功した。




第3部隊  テント


少女を横たえ、楽な姿勢で眠らせておく。

「うぅ・・・」

悪夢でも見ているのだろうか。

うっすら涙をにじませ身をよじる少女の頬にかかった髪を、SOはそっと払った。

「・・・」

何分経ったかわからない。

気付いたら日が暮れていて、夕日が山岳に隠れてしまった。



「・・・」

少女がゆっくりと瞼を開ける。

「!」

ロランがそれに気づき目を見開く。

「・・・だ、誰、ですか」

少女は震えた声を出す。

その声を聴いたとき、ロランの脳裏にはあの声が思い出されていた。




______衝動的な行動は、後悔しか残らないから






「我々はマジェスティアナ義勇軍第3部隊の者。君を保護している者だ」

「ほ、ご・・・?」

たどたどしく言葉を発する少女に、SOは柔らかい笑みを浮かべながら問う。

「少女よ。君はなぜここに?」

「わたし、は・・・」

少女は首を傾げ、不安げな様子でSOを見る。

やがて意を決したのか、薄い唇をゆっくりと開いた。

「・・・わからない、です。記憶が、曖昧、で・・・」

「そうか。ならば無理に思い出さずともいい。ほら、ホットココアだ。これを飲んで少し落ち着け」

マグカップに入ったそれを差し出す。

少女はぎこちなく受け取ると、ゆっくり、ゆっくり口をつける。

「・・・甘い、です」

その言葉を聞き、SOはほっとしたような表情を浮かべる。

「少女、君の名前は何という?」

少女は視線をさまよわせ難しい顔をする。



「・・・・・・リュンヌ。オフィーリアがそう、呼んでいました」

「オフィーリア?それは君の親族か?」

「・・・多分」

まだ記憶に欠陥が多い。

SOは一つ頷くと、

「では、これから君のことをリュンヌと呼ぼう。リュンヌ、君は魔術師か?」

その言葉に、リュンヌは過剰に肩を震わせた。

がくがくと怯え、爪を噛む。

「リュンヌ?」

「・・・大丈夫、です。わから、ない、けど、多分、そう、なんだと、思い、ます」

顔を青ざめながら答えるリュンヌ。

SOは隊員に毛布を持ってこさせ、それをリュンヌに被せる。

「すまないな、無理に頭を使わせてしまった。しばらく休むといい」

「・・・は、い」

「少年たち。悪いが護衛を頼む。私は少し、テオと話してくる」

「はい」

SOは立ち上がると、テントから出ていった。

「大丈夫か?」

ユハニが問うと、口まで毛布を被ったリュンヌが頷く。

「ゆっくり休めよ」

その言葉に、もう一度頷くと、ロランの方に視線を移す。

「・・・あの」

「・・・?」

リュンヌは躊躇いがちに弱い声で言った。





「どうか、私のことは、気に、しないで、ください。どうせ、すぐ・・・」




「すぐ?」

ロランが問うと、リュンヌは首を振って目を閉じた。

眠り姫のように、安らかな寝顔だった。

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