第18話 憎むべき悪



議会の人間の最期を覚えている。

老害というに相応しい人間の末路を覚えている。

命乞いの言葉が、舌に油でも塗ったのではと思うぐらい飛び出した。

だが、その言葉も、あの男たちによって容易く止められる。

「お前も殺しゃあいいのに。いい獲物がすぐそこに転がってんだからよ」

こんな奴らのために手を汚すものか。

私が手を汚すのは、そう、彼女のためだけ______。



             ♦♦♦

  


目的地に向かう旅には邪魔がつきものだ。

オートマタが大群で荒野に押し寄せてきたり、崖から突撃されたこともあった。

「よくもまぁ、あんな策思いつくもんだ。雑魚共の分際で」

「多分、上位種か【インフェルノ】の誰かの策だろう。少しでも我々の戦力を削ぐため、予め様々な場所にこういったトラップを張っているとみた」

ハイドの呟きに、SOが返す。

確かに、そう思うのが妥当に見える。

通ってきた小道や抜け道にもオートマタの残骸が残っていた。

【インフェルノ】に策士がいれば、戦いはもっと熾烈な戦いになるだろう。




数時間後、大きな街道にて。

「よし。ここから2手に別れよう。遊撃隊の4人は、2人ずつどちらかについてくれ」

SOにそう言われ、遊撃隊のメンバーは顔を見合わせる。

軽く話し合った結果、第3部隊の方にはユハニとロラン、第4部隊にはフレイヤとヴィルヘルムがつくことになった。

「じゃあ、また、現地で」

「おう」

軽く手を振り合って、別れる。





第3部隊   名もなき荒野にて。


「そういえば遊撃隊」

無言で移動が続いていた時、SOが2人に声を掛けた。

「はい、なんでしょう」

「お前たちは、議会の人間に会ったことはあるか」

そう問われ、思わず顔を顰める。

横のロランも端正な顔を険しく歪めていた。

議会の人間は、自分の利益しか考えず、困窮している人間は切り捨てても構わないとさえ思っている。

いけ好かない人種だ。

2人の顔を見て、SOが口を開く。

「まぁ、その態度が当然だよな。私も一度会ったことがあるが、「平民風情が」と見下し、こちらの話は聞かずに一方的に話を進めてしまった。もう二度と会いたくはない、と思っていたが・・・な」

そう言い、こちらに背を向けた。


「どんな人間だろうと、命の価値は同じだ。その命を奪った人間は悪だ」

「はい」

「必ず倒すぞ。私達の手で終わらせる」

そう力強く、SOは言った。

その時、どこからかノイズ音が聞こえた。


『隊長!』

先頭を司る隊員から無線が入る。

「どうした?また出たのか?」

『いえ、それが・・・』

言いづらそうに声を詰まらせ、隊員はその先を口にする。





『この荒野に、少女一名が、倒れています』



「こんな荒野に?」

SOが顔を歪める。

この荒野は植物一つない、荒れ果てた無開拓の地だ。

人が通る気配のない場所だ。

「周りには町どころか農村一つない。なぜこんな場所に少女がいるんだ?」

首をひねって考えるSO。

報告を続ける隊員の声音が、次の瞬間変わった。

『それと、隊長』


隊員が言った言葉は、とても信じられないものだった。





『その少女、黒くて長い杖を持っています。絶滅したはずの、魔術師の杖を』


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