第2章 新たな因果

第17話 遠征

あの出来事から、数日後。




「遊撃隊、指揮官から指令が下った」


唐突にやって来たアルベルトに驚きつつ、次の言葉を待つ。


「第3部隊と第4部隊の後方支援を頼む。彼らは南国の、ガルト王国へ遠征に行く。そこには数か月滞在し続ける上位種がいるみたいでな」

「了解しました」

「じゃあ宜しくな」

手を軽く挙げて立ち去るアルベルトの背を見送ると、キッチンで料理をしていたロランに声を掛ける。

「遠征だってよ」

「・・・どこに?」

「ガルト王国。準備できるか?」

少し考えるような仕草をすると、「わかった」と頷いた。



                  ♦♦♦



隊長副長の会議室にて。

「あー、疲れた疲れた」

東国の衣装を身に纏った男が、席に大儀そうに腰かけた。

「お疲れ様です、ルーク」

リーがにこにこと笑いながら紅茶を差し出してくる。

「助かる。ありがとな、リー」

それを礼を言って受け取り、喉に流し込む。

「ルークか」

会議室の扉が開かれ、アルベルトが姿を現す。

「アルベルト隊長」

「解析は終わったのか?」

アルベルトは、ルークに正対する席に腰かける。

ルークは肩をすくめて答える。

「はい。だいぶ苦労しましたよ。何せあのセキュリティが跡形もなく消えていたんですから」

「それはご苦労だったな」

差し出された紅茶を受け取り、口をつけるアルベルト。

「議会を覆っていた結界もセキュリティも、まるで最初から存在していなかったように消え去っていた。これはつまり、【インフェルノ】もしくは『懺滅隊』の中に、恐るべき実力を持つ破壊者がいることになります」

「最後のブラックホールの主とは考えられないか?」

「それも可能性としてはあるでしょうが、今は何とも。結界を破壊した魔法はほとんど痕跡がなかったので解析は難しかったですが・・・」

ルークは一枚の紙を取り出す。

「殺されていた議会の人間の服に付着していた魔力がありましてね。少々調べたのですが」

表情を曇らせるルーク。

余程深刻な何かなのだろうか。

頷いて先を促す。


「十数年前に絶滅した、魔術師の魔術に酷似していました」



                   ♦♦♦



指定された集合時間にロビーに行くと、2人の人間が遊撃隊を待っていた。

「時間ぴったり、か」

SOと呼ばれていたヒトだ。

相変わらず女か男かわからない姿をしている。

「よぉよぉ、久しいなお前ら!何か月ぶりだ?」

軽く手を挙げる、大柄な男性。

その姿を見て、フレイヤ達の顔がわずかに明るくなった。

「ハイド先輩!」

彼はハイド。

戦術技能高校時代の先輩だ。

「お前らがサポートしてくれるなら嬉しいな。今回の遠征、よろしく頼むぞ」

「はい!」

和気あいあいとした空気に、SOもわずかに微笑む。

「少年たち。そろそろ行くぞ。準備はいいか?」

SOが流し目でこちらを見てくる。

「はい、大丈夫です!」

「これから険しい山をのぼり、天候の変わりやすい地域に行くからな。体調管理に気をつけろよ」

ハイドが笑いながらフレイヤたちの背を叩く。

SOが歩き出し、ハイドもそれについていく。

フレイヤたちも2人に置いていかれぬよう大股で進む。




ガルト王国への遠征が始まった。

それが、思わぬ歯車を廻すことになるとも知らずに。

彼らは歩みを止めず、目的地まで急いだ。

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