第16話 そして運命は交錯する

数週間後。

ユハニの怪我が完治し、遊撃隊に復帰した。

「治りが早かったな」

そうフレイヤが言うと、ユハニは鼻を鳴らす。

「当然だ。1人だけ取り残されるわけにはいかないしな」

ヴィルヘルムがこらえきれず軽く噴き出す。

「んじゃ、訓練場行くか」

「おう」


数時間後。

彼らは互いに剣を交え、編み出した技の進化に磨きをかけていた。

「うっし。一本取ったぞ」

「げ。フレイの分際で・・・」

ユハニが膝をつき、目の前にはフレイヤの大剣が突き付けられていた。

「数週間練習しないのに、こんなに弱ってるもんなんだな」

息が上がっているユハニに、ロランが水を差し出した。

「ん。ありがと」

一気に呷ると、ユハニが落ちていたエッジを拾い上げる。

「もう1回だ!次は負けないぞ!」

「おう!」

「まったく、脳筋馬鹿どもが・・・」

溜息をつくヴィルヘルムの顔には笑顔が浮かんでいた。

その表情を見て、ロランも小さく笑みをこぼす。

金属音と、彼らの動きの振動が訓練場に響く。

その後、一進一退の攻防が続き、結局フレイヤの圧勝で2人の対決は終わったのだった。



「隊長達に訓練をつけてもらうだけでこんなに変わるんだなぁ」

サンドイッチを頬張りながらしみじみと言う。

「フレイは今まで大振りな動きが多かったけど、今はそうでもないしな」

ユハニがレモネードを飲みながら頷いた。

「でも、ユハニが戻ってこれて何よりだ。やっと4人に戻ったのだからな」

ヴィルヘルムが埃被った聖書を払う。

「・・・落ちつく」

ロランがサンドイッチに手を伸ばす。



そのとき。

けたたましいサイレンが、場を包み込んだ。






「緊急招集!緊急招集です!」

情報部の少年の声が聞こえる。

「今すぐ、舎内にいる隊員は帝国議会へ急いでください!帝国議会が襲撃に遭いました!」

その言葉に、4人は一斉に立ち上がる。

「議会って、帝国の中枢機関だよな?!」

「ああ!軍部の機密情報もそこにはある!急ぐぞ!」

ヴィルヘルムが先導し、残りの3人もそれぞれの武器を持ち後を追う。

回廊は、いろいろな部隊の隊員がせわしなく動き回っていた。

「混乱しているな。裏口から出るぞ」

ヴィルヘルムが走る方向についていく。

急げ、急げ、という言葉が脳をこだます。

外に出て、車や人々の隙間を縫って進む。

「あれだ!」

ヴィルヘルムが指さした先に見える、黄金の建物。

それに近づくにつれ、怒号と悲鳴の混乱の声が強くなってくる。



議会の前にやっとたどり着いた時には、既に隊長副長は到着していた。

「遅かったか・・・」

悔しげに言うアルベルトの視線の先には、何人かの老人が血まみれで倒れ重なっていた。

議会のあちこちから煙が上がっていて、血に濡れている場所もいくつかある。



「遅かったね~ぇ」

その声に上を見上げると、目に隈の出来たショットガンの女が避雷針の上に乗っていた。

「もうみんな殺したよ?あんたたちが来る前にとっくにねぇ」

「外道が・・・!!」

怒りのままに剣を抜こうとする男をアルベルトが制する。

「何が目的だ?」

「何が目的って言われても・・・。あんたたちをおびき寄せること?」

その言葉に、隊長副長がそれぞれの武器に手を掛けた。

「あはは、やめてよぅ、物騒だなぁ。冗談だよ。ほんとはね、挨拶しに来たの」

「挨拶・・・?」

「そ。私達、【インフェルノ】のね」

首をひねるアルベルト。

すると女の後ろから、何人か姿を現した。



「挨拶なんて生ぬるいこと言わないでさ~ぁ、とっととぶっ殺そうぜぇ、こんな奴らぁ」

拳を鳴らす黒き男。狂った赤い目が彼らを捉える。


「黙りなさい野蛮人が。戦う以上、最低限の作法とルールは守るべきです」

白い長い髪を束ねた剣士の男が冷たく一瞥する。


「いいじゃないですか。さっさと殺しましょう。一緒に死にましょう」

緑色の髪をなびかせた女が狂った笑みを浮かべる。


「そんなのどうでもいいよ、なんでもいいよ・・・。あー、だるいなぁ」

めんどくさそうに背伸びをする小柄な少年が、ため息を吐く。


「ねぇ、あそこにいるの隊長副長じゃなさそうだよ。打っていい?」

口元を黒いマスクで隠した少年は弓を構える。


「駄目に決まってるでしょ。あのお方の御命令よ、バーカ!」

蒼い髪を持った少女が爪を噛む。


「ん?あそこにいるのは・・・リーじゃないか!」

嬉しそうに笑う3本の刀を持った男がはしゃぐ。


「知り合い?・・・まぁ、いても不思議じゃないわね」

紺色の髪を持つ妖艶な美女が口角を吊り上げる。


「・・・」

金色の髪を持つフードを被った女は、興味がなさそうに視線を逸らす。


「哀れな子供たちだ。殺して救ってあげねばならぬ」

神父のような恰好をした男が手を合わせる。


「私に治せない病気はないですからねぇ、安心して体を預けてくださぁい」

目の焦点が合っていないナース姿の女がうっとりとした笑みを浮かべる。


「どいつもこいつも好き勝手言いやがって。俺はお守りじゃないんだが」

サブマシンガンを持った男は、こめかみに手を当てて唸る。



13人の者達がこちらを見下ろしている。

気を抜けば喰われてしまうような威圧感。

あの2人組とは比べ物にならないほどの恐怖が、遊撃隊を襲った。





「・・・・!!」

「リー?」

マカロフが隣のリーの顔を覗き込む。

リーが怒りに満ちた顔で刀に手を掛けた。

「リー?!」

彼女の目が真っ赤に染まっている。

ふぅふぅと息を上げ、自分を押さえているように見えた。

(落ち着いて、落ち着いて。・・・今襲い掛かっても何の意味もない)

唇を噛み、血を流しながら刀から手を離した。



(あのリーがあんな顔をするとは)

アルベルトが険しい表情を作る。

「ま、長くはないだろうけど、お付き合い宜しくね」

目に隈の出来た女がひらひらと手を振る。

「あの方があんたたちを敵だと認識した。これだけでも十分凄いんだよ?陸軍とかが束になっても勝てない上位種を打倒した奴がこの中にいたんだからさぁ」

「そんな話はどうでもいい」

怒気の含んだアルベルトの声に、女が不快そうに顔を歪める。

「なんか面倒くさい奴らぁ。あー、ぶっ殺したい、脳漿派手にぶちまけさせたい」

ショットガンを肩に何度も打ち付ける。







「・・・帰るよ」





空間を震わすか細き声。

13人の【インフェルノ】が振り返る。

「・・・お姫さんか」

サブマシンガンの男が脱力したようにため息を吐く。

「・・・呼んでる」

その声の主の姿は見えないが、【インフェルノ】の背後に禍々しいブラックホールのようなものが見えた。

それは茨のような形をとって、彼らを喰らう。

「じゃあ、またね」

隈の出来た女はひらひらと手を振る。



「次会うときは、必ず全員ぶっ殺してやるから」






「隊長!副長!ご無事ですか!」

彼らが消えた後、それぞれの部隊の隊員が駆け付けた。

「あ、ああ・・・」

アルベルトは顔を上げると、指示を飛ばす。

「第1部隊は被害の状況の確認、第2部隊は周辺の住民の安全確保、第3部隊は怪我人の処置、第4部隊、第5部隊、遊撃隊は第1から第3部隊の手伝いを。第6部隊は議会の周辺に結界を張ってくれ」

『了解!』

それぞれの部隊の人間が散っていく。

「とりあえず俺らは戻って指揮官に報告だ。急ぐぞ」

「わかったわ」

隊長副長もその場から離れていく。




(私は、あの男を許さない)

復讐に燃える副長は消えた男の顔を思い浮かべ、唇を噛みしめる。


(あの男の魔力・・・どこかで感じたことがあるような・・・)

双槍の使い手たる副長は、首をひねって過去を辿る。


(殺す・・・あいつら全員ぶっ殺す!)

血の気の盛んな副長は静かに怒りを思い出す。


(あのヒト・・・)

幼き隊長は過去を思い出し、泣きそうな顔をする。


(あの侍は久方ぶりに見たなぁ、もうあの国には存在してないはずなんだけどなぁ)

盲目の隊長は楽し気に笑みを深める。


(あの女は必ず殺さなければならない)

中性的な美貌の隊長は、迷いなき歩みを止めない。








それぞれの思惑が交錯する、この世界は。

静かに終焉へ歩みを進めていた。




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