第13話 【インフェルノ】



およそ5時間の鍛錬を終え、寮へ戻る遊撃隊。

「はぁ~・・・疲れた・・・」

「同意だ。しかし流石隊長の選抜した隊員たち。いい鍛錬になったな」

「・・・」

汗をタオルで拭いながら、寮の先にある風呂場へと向かう。

「・・・ん?」

「どうした?」

ヴィルヘルムが振り返って、顔を歪めた。

それに気づいたフレイヤが問う。

「・・・いや」

問いには答えず、先に風呂場へと向かってしまう。

首を傾げながら、フレイヤ達は後を追った。







約十分後。

風呂場から遊撃隊が出てきた。

「ロビーで茶でも飲むか」

「いいね」

そう言って、専用のロビーに行くと。



「お疲れ様です」



「・・・え」


ロビーには、1人の女性が既に茶を淹れていた。

「リー・・・副長」

「覚えていてくれたんですね。嬉しいです」

にこやかな笑みを崩さない、黒髪の美女。

第2部隊副長のリー・スカーレットスターだ。

茶を淹れたポットとティーカップをトレーの上に置き、テーブルに置いた。

「どうぞ。ゴールデンルールに沿って淹れていますので、きっと美味しいですよ」

良い茶葉も使っていますから、と勧められ、ソファーに座りそれに口をつける。

「・・・んん!」

初めての味わいだ。

柔らかく、優しい味がする。

「・・・美味しいです」

「なら良かったです」

笑みを深め、自身もソファーに腰かけるリー。

「どうしてここに?」

ヴィルヘルムが聞くと、リーは小さく頷いて答える。

「お話しておかなければならないことがありまして」

「・・・それは、どのような要件で?」



「【インフェルノ】のことです」




【インフェルノ】______

あの2人組の上位種が言っていた言葉だ。

「【インフェルノ】とは、上位種の上位種・・・。名前のみが知られている、「懺滅隊」の長の、直属の配下たちです」

上位種の上位種。

「懺滅隊」の中でも選ばれた者たちのことらしい。


「遭遇した他の私設兵団、陸軍の部隊をすべて全滅させています。彼らの交戦履歴からその名前のみ知られていますが、どのような能力を持っているか、強さを持っているのか。私達もわかりません」

「でも・・・あの2人組は」

「あの2人はおそらく、【インフェルノ】ではないでしょう。私の力のみで倒せてしまう相手ではない、と我々は考えています」

ガトリンクとセイメイ。

あの2人だけでも強かった。

攻撃が全く通用しなかった。

それなのに。

それ以上の強さを誇る者が、存在する。

「あの予言から数十年。私はあの予言が、前女帝のお戯れだと言い切りたい。ですが、今の状況はそう言い切れないところがある」

「リー副長・・・」

「私はこれ以上強くなることは難しいでしょうが、貴方たちならすぐ強くなれる。経験を積めばどこまでも行ける。私はそう信じています」

リーが立ち上がる。

「私ばかり喋ってしまいましたね。貴重なお時間を割いてしまって申し訳ありませんでした」

「いえ・・・。大事なお話でした。ありがとうございます」

フレイヤが頭を下げると、困ったような笑顔を作る。

「似ていますね、フレイヤさん」

「え?」

「私の親友に似ています。その、真っすぐなところ」

では、と軽く一礼してリーは立ち去った。

その背は悲しげな雰囲気を纏っていた。




              ♦♦♦♦♦♦


暗闇の中に、少女が在った。

拘束着を着せられていた。

「ここはどこなの?おとうさんは?おかあさんは?」

その質問に、目の前の黒衣女性は答えず、少女を気の毒そうに見下ろすだけだった。

「ねぇ、教えて・・・。お願いだから・・・」

ここは冷たいの。

嫌なの。

そう泣き叫んでも、窓から光は差し込まない。

少女の精神は、限界にあった。




「またこの夢、なの・・・」

頭を抱えた少女が、ゆっくりとベッドの上で身を起こす。

「どうした?」

傍らの男が、少女の顔を覗き込む。

「・・・何でも、ない・・・。喉、乾いた・・・」

「そうか。何がいい?」

「・・・温かいミルクでいい」

その答えに、男は目を丸くした後、小さく笑った。

「すぐに持ってくる」

部屋から出ていくその背中を見送ると、少女は窓の方に首を動かす。

外からは断続的に爆発するような音が聞こえる。

きっとどこかで戦いが起こっているのだろう。



悲しい世界だ。

少女は虚ろな目から一筋光をこぼし、その目を閉じた。


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