第12話 直弟子

雲一つない、晴天の朝。

洗濯物もすぐに乾いてしまいそうな、日差しと風が心地よい日。

そんな日に、遊撃隊の3名は隊長達に呼び出された。


「ど、どどどどうしよう」

「何びびってんだ」

フレイヤがガタガタ震えているのを、冷ややかに見ているヴィルヘルム。

「隊長達の直々のお呼び出しだなんて。俺、何もやらかしてないと思うんだけどな」

「気が合うな。俺もないぞ」

「・・・でも、用がないなら呼び出さない、よね」

ロランがハンドガンをホルダーにしまいながら言う。

「・・・そうだよな」

意を決した様子で、隊長達のいる会議室の前に立つ。

「やましいことなんて何もないんだ。堂々としてりゃあいい」

「お、フレイにしちゃあまともなことを言うな」

「・・・じゃあ、行くよ」

ロランが軽くノックをする。

どうぞ、と声がして、躊躇いがちに扉を開く。


「失礼します・・・」


そこにいたのはサングラスの青年、レベッカ、リーの3人だった。

「お久しぶりです。ご友人の怪我は大丈夫ですか?」

リーが微笑みながら聞いてくる。

「は、はい。命に別状はないみたいですが、療養が必要だと・・・」

「なら良かったです」

リーが席に座るよう促す。

落ち着かない様子で3人は目の前の椅子に腰かけた。

リーがロイヤルミルクティーを彼らの前の机に置いた。

「あ、ありがとうございます」

「・・・さて」

サングラスの青年が椅子から立ち上がる。

「よく来たな遊撃隊。俺は第1部隊隊長のアルベルト・ワーグマンだ」

第1部隊の噂は聞いたことがある。

エリートたちが集まる集団で、引き受ける任務はいつも過酷なものばかりだと。

「私は第2部隊の隊長、レベッカ・ナイン!よろしくね」

童顔の少女は駆け寄ってきて3人に握手を求める。

3人はされるがままになっていた。

第2部隊は後方支援メインの部隊だ。

「一応、挨拶はしておきましょうか。私は第2部隊副長のリー・スカーレットスターです」

先日の戦闘で助けてくれた副長だ。

確か以前、「復讐の鬼」、と名乗っていたが・・・。

「呼び出した要件は、伝えていなかったが」

「はい」

アルベルトは3人の目を真っすぐに見据えた。



「遊撃隊。俺たちの直弟子にならないか?」




「・・・え?」

呆けた声に、思わずレベッカが噴き出す。

「そ、それはどういう・・・」

「言葉通りの意味だ」

くすり、とリーが笑って、アルベルトに言う。

「アルさん。もうちょっとわかりやすく言ってあげないと。具体的に、どういうことか。どういうことをするのか、とか」

「む・・・」

「驚かせてしまいましたね。直弟子というのは、隊長副長が直々に戦い方を教え、その教えを受ける者のことです。主に、太刀筋の矯正や、射撃練習を共にします」

リーの言葉に、ヴィルヘルムが手を挙げる。

「簡単に言えば、弟子にしてもらえる、ということでしょうか?」

「はい、そうですね」

「なら____」

ちらり、とヴィルヘルムがフレイヤ達に視線を送る。

フレイヤが頷いて、答える。


「喜んでその話、お受けします」


その返答に、笑みを深めるリー。

レベッカがわーい、と喜んでフレイヤの手を取る。

くるくる踊る彼女に翻弄される。



「遊撃隊」

アルベルトの威圧のある声に、思わず顔がこわばる。

「今のこの状態は、とても危険だ。わかるか」

「はい」

「いつ上位種や【インフェルノ】が動き出すかわからない。いつ帝国民の命が、生活が脅かされるかわからない」

とんとん、と指で机を叩きながら言う。

「だから俺たちは、見込みのある後輩から育てていこうと決めたんだ」

「つまり、貴方達は見込みがあるって思われたのよ」

レベッカが身軽なステップを踏む。

「頑張ってね」


「・・・はい!」



「んじゃ、早速行こっか~」

レベッカがフレイヤの背中をぐいぐいと押す。

「え、い、今からですか?」

「善は急げ、って言うでしょ。うちの部隊の精鋭たちがもう既に訓練場で待ってる。早速鍛錬よ!」

「は、はい!!」

3人は促されるまま退出した。

フレイヤが扉の閉まる寸前、振り返る。

その部屋には、呆れた笑顔を浮かべるアルベルトと、笑顔で手を振るリーがあった。



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