第11話 真相

数時間後、病棟内にて。


ユハニは、何とか手当をし大事に至らず、しかし療養が必要とのことで2週間弱入院することになった。

「大丈夫か」

フレイヤが問いかける。

「平気に決まってんだろ・・・痛てて」

強がりを見せるが、まだ傷が痛むようで胸を押さえた。

「ごめん、ユハニ」

ロランが申し訳なさげに俯く。

そんなロランに、精一杯の笑顔を向けるユハニ。

「謝る必要ないって。仲間なんだから当然だろ」

「ユハニ・・・」

「ったく、本当にお前は馬鹿だな、ユハニ」

ヴィルヘルムが見下すように鼻を鳴らす。

「な、なんだと」

「なぜ頭を働かせる前に身体が動くんだ。副長が助けに来てくれたからよかったものの、来てくれなかったら全滅してたんだぞ」

「う・・・」

ヴィルヘルムの指摘に、身を縮こませる。

彼がベッドに近づいてきて、軽いデコピンをユハニにした。

「いてっ」

「今回はこれで許してやる」

顔を上げると、ヴィルヘルムが仁王立ちをして呆れた笑顔を浮かべていた。

「次からは頭も使うんだな、脳筋」

「わ、わかってる」

フレイヤがその様子を見て背伸びをし、「よーし」と声を上げた。

「まだまだ俺たちは未熟だな!これから特訓するぞロラン、ヴィル」

「・・・」

「おう」

2人は頷き、扉へ向かう。

「え、え?!俺抜きで?!」

「当たり前だ。要療養だろ?」

「う、うぐ・・・」

不満げなユハニを残し、3人は訓練場へ向かった。






               ♦♦♦♦♦♦♦♦♦




日暮れの会議室。

ここに、12人の隊長副長たちが集まっていた。

「一体どうしたんだ、リー。話って」

サングラスの青年が腕を組みながら問う。

「皆さんにお見せしたいものがあるのです」


そう言ってハンカチーフを開いて見せたのは、2枚のマイクロチップ。

損傷が激しいが、独特のデザインをしているのは見て取れる。


「これが、どうかしたの?」

小柄な少女が首を傾げる。

「私が倒した上位種の頭部に埋め込まれていたものです。彼らは自身のことを、

【インフェルノ】であると言っていました」

その言葉に、場の空気が揺らぐ。

「本当に【インフェルノ】だったの?」

レベッカが問うと、リーは首を振る。

「違うと思われます。【インフェルノ】であれば、私が1人で倒すことなどできないでしょう」

「なら、これは一体・・・?」

「おそらく、ですが」


「催眠効果のある、特殊なマイクロチップです」


「催眠・・・効果?」

中性的な美貌の持ち主が顎に指を添える。

「はい。私が昔一時期滞在していた、研究施設にあったものだったと思います」

「つまり、自分を【インフェルノ】だと思わせる代物・・・ということか?」

「そういうことですね」

「でも、サフォイア公国を無政府状態に陥らせたのは、奴らで間違いないんだよな?」

巨漢の男はリーに問う。

リーは静かに首を振った。


「違います」


「何故そう思うんだい?」

盲目の青年が声を弾ませる。

リーは一度息を吸って、ゆっくりと吐いた。

「銃を使う女性の上位種は、銃を乱発し数に物を言わせる戦い方でした」


「ですが、サフォイア公国の、襲撃された議事堂の様子は、銃弾一発一発で中枢器具、監視カメラを破壊されていました」


「2人の上位種はただの捨て駒だったのでしょう」


「つまり、サフォイア公国を無政府状態にした者は別にいる」


「それが恐らく、本物の【インフェルノ】」





  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



暗闇。

薬品の匂いが染み込んだ空間で、眠る少女を見守る男が1人。

時折少女の毛布をずらしながら、寝顔を見守っていた。


「お~い、ボスぅ・・・」


気怠けな声が突然空間を支配する。

男が驚いた様子はなく、ただ少女の頬にかかった髪を払った。


「良かったの~ぉ?アタシの代わりに、2体上位種犠牲になったんでしょ~?」

「別に構わないさ」

気怠けな声の主は影の中から姿を現す。

ショットガンを肩にかついだ、目に隈のできた女だった。

「どうせ扱いが面倒な奴らだったんだ。いつ死んだって気にしない」

「う~わ。・・・んで?次のアタシの仕事は?」

男は少女の髪をすいて弄びながら答える。

「手のかかるあいつらの支援だな」

「ちぇっ、また雑用か・・・」

ブツブツ文句を言いながら、女は窓の縁に手をかける。

「あ、そうそう」

女は振り向いて、男に人差し指を向ける。


「何とか義勇軍?だっけ?・・・が、今回上位種倒したらしーよ。面白くなってきたよねぇ」


ばいばい、と言ってから、女は躊躇うことなく窓から飛び降りる。

男は窓の方に視線を向け、やがて愉快そうに嗤い始めた。


「滑稽なことだな。使い捨ての駒とはいえ、上位種なら隊長ごとき潰せると思っていたが・・・」


男は安らかに眠る少女の額に手を当て、ふっと優し気な笑みを漏らす。

少女は可愛らしい寝言を言いながら、寝返りを打った。


「これまでの軍や私設兵団とは違うようだな。これからもっと、愉しくなりそうだなぁ」


そう言って男は立ち上がり、部屋を後にする。


明かりのない廊下を行く男の姿は、やがて、見えなくなっていった。






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