第10話  作戦終了


一方的な自己紹介を終えた後、リーは振り返ってフレイヤたちに駆け寄った。

「怪我はしていますか?」

「あ・・・、俺は、ないですけど。ユハニが・・・」

視線の先には、浅い呼吸を繰り返すユハニの姿があった。

地面に膝をつき、怪我の具合を確認する。

「傷が深いですね。私は回復魔法に精通していないが故、ここで治療はできませんが・・・」

にっこりと笑って立ち上がる。

「近くに治療班を待機させてあります。すぐ呼びますから、彼をこのまま安静にさせておいてください」

「はい!」

フレイヤとロランはほっと息を吐く。

リーは懐から無線機を取り出し、何事か指示を出していた。

会話が終わると、周りに倒れ伏している隊員たちに近寄っていく。

「大丈夫ですか?」

「あ・・・リー、副長・・・」

気絶していた隊員たちが目を開け、掠れた声を出す。

「よく頑張りましたね。もうすぐ治療班が来てくれますよ」

隊員たちを労い、彼女は笑顔を振りまく。

これが副長の器か、とフレイヤは合点していた。



治療班やヴィルヘルム達がフレイヤ達と合流し、てきぱきと治療をこなしていく。

その傍ら、リーは2人の上位種の亡骸の部品を拾い上げていた。

「何か見つかりましたか、副長?」

後始末を担当する処理班が彼女に話しかける。

「いえいえ、大したものではないのですが」

彼女の桜色の爪が何かを弾き、指で捕らえた。

その部品を見た瞬間、彼女の顔から笑顔が消えた。

「・・・成程」

「副長?」

処理班の1人が彼女の顔を覗き込む。

「この部品、預かっても構いませんか。隊長達にご報告をしなければ」

「え?・・・ああ、はい。後で、こちらに渡していただければ」

「ありがとうございます」

彼女は顔に笑みを浮かべ、ハンカチーフでそれを丁寧にくるんだ。

それを懐にしまうと同時に、無線から声が聞こえた。

「聞こえるか、リー」

若い男の声だ。

「はい。どうか致しました?」

「上位種は、倒せたのか?」

「はい、先刻」

「よし。こちらもすべて討伐し終えた」

 


「作戦終了だ」


その声を以て、場の空気が微かに緩んだ。

作戦終了。

その言葉の解放感が、戦場を包み込んでいた。




傷だらけの隊員たちは、専用車に乗せられて、病棟へ運ばれていく。

特に異常のなかったフレイヤ達は、報告書をまとめ指揮官へ提出した。

これで、サフォイア公国に侵攻した懺滅隊の討伐作戦は、完了したのである。





隊長副長専用の寮に戻ると、サングラスの青年が、ロビーでリーを待ち構えていた。

「ご苦労だった」

「いえ。これが私の仕事ですから」

その言葉に、青年はふっと表情を柔らかくした。

「久しぶりに食事に行かないか。無論、ベッカ達も誘ってある」

「それは魅力的なお誘いですね。ですが・・・」

彼女は懐からハンカチーフを取り出した。



「その前に、お話があります」

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