第9話 復讐の鬼


「調子に乗るなよ」


腹の底から低い声を出してガトリンクは言う。

女性は「乗っていませんよ」と笑みを深める。


「この程度の修羅場、何度も潜っている」


そう言って、ガトリンクが腰のホルダーから取り出したのはハンドガン。

かなり古いタイプだが、使い込まれている。


「ガトリンクが本気を出すのなら、俺もやるぞ」


セイメイの鉄扇そのものが、禍々しい形に変化していく。

それが大きな鎌になり、それを女性に突き付けた。



「やるぞ、ガトリンク!援護を頼む」

「わかっています。仕損じることがないように」



2人は顔を見合わせ笑いあうと、女性へ一歩踏み出した。

「お話は済みましたか?」

にこやかに笑う女性は、2人の姿を見て少し目を見開く。

「へぇ、2人の魔力がぶつかることなく統率が取れている。素晴らしいですね」

「褒めている場合か?」

セイメイが鎌を振り上げ女性の頭部を狙う。

低い体勢で躱した女性に、ガトリンクの銃弾の雨が襲う。

「・・・」

バク転で距離を取ると、女性は腰に挿している刀に手をかけた。

「こちらも時間がありません。短期決戦といきましょうか」

6本ある刀のすべてを抜き放った。

指と指の間に刀1本を挟み、片手に3本ずつ構える。


「そんな器用な芸当ができんのか」

セイメイが高速で女性に近づいて、攻撃を繰り出す。

鎌の連撃を器用に刀でさばきつつ、女性は後ろ回し蹴りをセイメイにきめる。

僅かによろけた隙を狙って、刀で足元を突こうとする。

が、銃弾によって阻まれる。

後ろに後退し、女性は少し息を整えた。

「どうした?さっきまでの威勢は?」

セイメイが小馬鹿にするように女性に叫ぶ。

女性は一度目を閉じ、ゆっくりと開く。




刹那。

女性の背後に、赤き焔に包まれた修羅が見えた。


2人が一瞬たじろいだ。




「逢魔が時」







女性の、繊細な声が空気を揺らす。

一瞬だけ、ほんの少しの間だけ、あたりが暗くなったように見えた。






気付いた時には、セイメイとガトリンク、両名の頭部に。

女性の漆黒の刀が深々と突き刺さっていた。








殆ど反応できなかった。

彼女の殺気に気圧された、と同時に。

彼女の声が何事か紡いだ、と同時に。

彼女の刀が、煌めいて、2人を捉えていた。

(・・・ぁ______)

2人は刀が引き抜かれた瞬間、ほぼ同時に崩れ落ちた。

顔のフレームがひび割れて、視覚がうまく機能しない。

「セイメイ・・・セイメイ」

相棒の名を呼ぶ。

手探りで彼を探す。

「俺はここだ・・・ガトリンク」

彼の手が重ねられる。

冷たい。

あの頃と同じように。

死に往く瞳が、彼を捉える。

「これで終わりだ、な」

うまく口が回らない。

自分がどんな顔をしているのか、表情がうまく作れないからわからない。

だけど。

きっと。

今の、自分の顔は。きっと。

「・・・長かった、なぁ・・・」

徐々にガトリンクの目から光が消えていく。

「そう、か?」

同じように声がぶれたセイメイが笑っている。

「俺、は・・・短いように、感じた、が・・・な」

何故そんなことを言うのか、理解できなかった。

死の直前、意味を辛うじてつかみ取ったガトリンクは声を絞り出す。

「・・会えて、よかっ・・・・」

言い終わらずに事切れた。

もう聞こえないとわかっている。

もう届かないとわかっている。

だが、セイメイは声を絞り出して応える。

「・・・・俺、も」

_____良い相棒を持てて、幸せだった。





刀を鞘におさめた女性は、動かぬ上位種を見下ろしていた。

だが、暫くして何か思い出したような顔をし、2人に声を掛けた。

「そういえば、自己紹介をしていませんでしたね」





「私は第2部隊副長、リー・スカーレットスター」









「復讐の鬼、と呼ばれています」

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