第8話 謎の刺客

フレイヤたちを、急激な恐怖が襲う。

それは死への恐怖。

権力者への畏怖。

何もできないことがわかっている。

ただ彼らは、恐れることしかできないでいた。




鎖鎌が、振り下ろされる。


アサルトライフルの引き金が、引かれる。




銃声が、森の中にこだました。










「・・・は?」


ガトリンクが呆けた声を上げたと同時に、アサルトライフルが地面に落下する。


「・・・何が・・・起こった?」

セイメイが持っていた鎖鎌の先がなくなっている。


フレイヤは死への恐怖から解放され、思わず脱力し息を吐く。

それはユハニやロランも同様だ。



「どうやら間に合ったようですね」



女性の声がして、2人は同時に振り返る。

そこにはフレイヤたちと同じような隊服を着た、黒髪の女性が歩いてこちらに来ていた。

燃えるような赤い瞳が、2人を捉える。

「あなた方が上位種で間違いないですか?」

「・・・馬鹿にしているのか?」

不快を露わにした顔で睨みつけるガトリンク。

女性はにこやかな笑みを湛えながら首を振った。

「いいえ、いいえ。そんなつもりはなかったのですが、不快に思われたのならば謝罪します」

「ただの上位種ではない。我らは【インフェルノ】」

その言葉に、女性は少し動揺したように体を揺らす。

だが、笑みは崩さない。

「そうですか」

女性はガトリンクの目前で歩みを止め、彼女に問うた。



「投降する気はありませんか?」




「・・・・は?」

「ああ、不快に思われたら謝罪します。私はただ、平和的解決をしたいだけであって、その方があなたたちにとってメリットも大きいのではないかな、と」

女性はガトリンクの手を取って上下に振る。

「今なら更生できますし、その方が明るい未来が待っていますよ!」


「ふ、ふざけるんじゃねーよ!!」


ガトリンクが地面からアサルトライフルを拾い上げ、女性に乱射する。

「危ない・・・」と言いかけたフレイヤは、次の瞬間息を呑んだ。



女性はひらりひらりと、身軽なステップを踏んで銃弾を避けていた。

それは狙いを定めさせないためなのだろうが、狂った足取りだった。


「調子に・・・乗るな!」


セイメイの鉄扇から刀が出現し、それがみるみるうちに肥大化し女性を襲う。

だがそれも、女性の自然かつ狂った足取りによってかわされてしまう。



「平和的解決はできないようですね。残念残念」


女性は2人の攻撃がやんだと同時に足取りを止め地面を蹴った。

一気に加速し、刀を抜いてガトリンクのアサルトライフルを払った。

アサルトライフルはバラバラの鉄屑になって、地面に落ちる。

セイメイの刀も、彼女の刀の一撃によって破壊された。


「ここからは、少し、本気で行きます」


女性は妖艶に微笑み、彼らに相対する。

彼女の目は、憎悪の焔で燃えていた。


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