第4.5話 破滅の前夜

???   深夜


暗い空間があった。

鉄の匂いが染み込んでいる、嫌な空間だ。

「よぅ、姫」

びくりと肩を震わせる。

桃色の髪をした目から血を流した少女だった。

「あ・・・」

少女はバツが悪いように暗闇から顔を背ける。

暗闇から、人が、帽子で表情を隠した男が現れる。

「そんなに血を流して、大丈夫か?俺のを分けてやろうか?」

「・・・要らない」

少女はネグリジェの裾を握り、首を振った。

その様子を見て、さして気にも留めていない様子で男は膝をつく。

「ベッドに運んでやろう。ほら、掴まれ」

その言葉に、訝し気な顔を作る。

少女は躊躇った手つきで男の頸に腕を回した。

「いい子だ」

男は少女の頬に唇を落とす。

少女は虚ろな目で夜空を眺めていた。

男は嬉し気に窓の開け放ち、風を浴びて声を上げて笑った。

「良い夜だ。明日、『奴ら』がやってくる。破滅の日だな・・・」

「・・・」

少女は虚ろな目のまま反応しない。

「セイメイ、ガトリンク」

「「はい」」

男の声に、派手な服を着た男と、メイド服を着た女が現れる。

「殺してこい、できるだけ。できれば各隊の隊長と副長の頸を、な」

「かしこまりました」

「了承いたしました」

「期待、しているぞ」

音もなく消える2人。

男は少女を見下ろす。

「身体が冷えたろう、今日はゆっくり寝るといい」

「・・・」

少女は黙って頷いた。

男は気づかなかった。

その虚ろな目から、一筋の涙がこぼれ落ちていることに。



男は少女を抱きかかえたままその場から去っていく。

彼らが夜闇に溶け込んで、静寂が訪れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る