第4話 少女

声が聞こえた。

あの時の声だ。


背筋が凍てつく。

ロランはゆっくりと、背後を振り返る。

そこには、喪服のように黒い服を着た、悲し気な少女がいた。

その少女がゆっくりと薄い唇を開き、声を紡ぐ。


_____戦場には、気をつけて


どうして、と唇が動く。


____衝動的な行動は、後悔しか残らないから


なぜ君は、と問う前に。

少女は顔を歪める。


____あなたたちが追うものは、危険すぎる

____あの国にはいかないで、きっと悲しいことが起きる___そうだ。あの時も・・・

____姉さんを、狂わせてしまったのは、すべて私のせいなんだ

____私の血を殺して

____血の縛りから、開放して_____



「・・・ロラン?おい、ロラン!」

はっと顔を上げると、フレイヤが肩を掴んで揺すっていた。

「どうした?気分が悪いのか?」

「・・・・なん、でもない」

あれが、夢であると信じたかった。

自分にしか聞こえていないようだから、夢だと片付けたかった。

だが、

あんなに深刻そうな顔をした少女が、自分の妄想だと信じがたかった。

(それに・・・)

似ていた。

あまりに。

自分の、境遇と。



「ま、明日の朝早めに起きて支度することだな。7時にここ集合で」

「了解」

「はいはい」

「・・・」

ロランは黙ったまま頷いた。

「ロラン、気分が悪いなら早めに寝て治せよ。明日は早いんだからな」

「・・・わかった」

頷き、仮面の位置をずらしながら部屋に戻っていく。

ヴォルフラムが大きなため息をついて銀製のティーセットを手に取る。

「少し話を聞いてくる。お前らはとっとと寝ろ」

「・・・相変わらず世話焼きだな」

「やかましいわ。風呂入ったばかりのその体に傷つけてやろうか」

心底不快だという顔をしながらも、ティーセットを持ってロランの部屋に入っていく。

その背を見送って、ユハニが立ち上がる。

「俺、武器のチェックしてから寝るわ。付き合えよ、フレイ」

「しょうがないな」

フレイヤは自室に戻って、大剣を持ってきた。

「恋愛相談か?今はレストランのオーナー一筋じゃなかったのか?」

冷やかすように笑うと、肩を落とすユハニ。

「それがな、お前ら気付かなかったと思うが、オーナー、すげぇいい格好した男と肩組んでたんだよ!」

「へぇ」

「調べたら、C.C.corporationの社長だったんだ!最悪だよ、もう・・・」

「おーおー、恋多き男だなお前は」

あんなに美しい女性なら、恋人はいてもおかしくない。

ユハニは確かに美形で人当たりがいいが、いつまでも「良い人」どまりだと思う。

「明日の任務が終わったら、飯おごってやるよ」

「ありがと・・・」

返す声も弱弱しい。

(災難だな)

苦笑して、大剣を研ぐ。



_____ねが_____れか_______


「ん?」

ノイズ交じりの声。

「どうした?」

エッジの手入れから顔を上げるユハニ。

「何か・・・聞こえないか?」

「そうか?」

首を傾げるユハニに、耳を澄ますフレイヤ。

鮮明には聞こえないが、ゆっくりと、何を言っているか聞こえた。


____お願い、誰か。聞いて。危険な場所に、行かないで_____


少女と思しき声だった。

必死な声だった。

「危険な場所って何だ?・・・・戦場か?」

「ん?何を聞いたんだ?」

「危険な場所に行くな、って。女の子の声だったが・・・」

何を伝えたかったのだろうか。

戦場は危険、ということは知っている。十分理解している。

だからこそ、戦場に赴く。

人々の未来のために。

(悪いが、その忠告は聞けない)

使命がある。

弱い人を、守ること。

それが、仲間達と自分の使命だ。


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